【対談】この人と語る!多様性の未来

多様性がそこにある(ダイバーシティ推進)という状態から、そこにある多様性をいかに理解・受容し(インクルージョン)、活かしていくのか。組織のめざすD&Iを実現するために、本当に効果的な施策とは何か。本企画は様々な企業や個人が取り組むダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の現状と未来をリアルに伝えることを狙いとしています。

今回のお相手は、日立ソリューションズ株式会社の各事業部でダイバーシティ推進を担当されている、4名の女性リーダーの皆さまです。この記事は全2回シリーズ後半となります。4名の皆さまが参加されたGSWの話をはじめ、ダイバーシティ推進カードゲームの社内展開、今後の展望についてお話を伺いました。是非お読みください。

左から:クオリア荒金、佐藤ゆかり様、中西真生子様、角南美佳様、佐藤千文様


<プロフィール>
■スマートライフソリューション事業部 プロジェクト統括部 部長代理 佐藤 ゆかり 様 
■クロスインダストリソリューション事業部 ビジネスコラボレーション本部 主任技師 角南 美佳 様
■スマートライフソリューション事業部 ワークスタイルイノベーション本部 センタ長 中西 真生子 様
■ITプラットフォーム事業部 デジタルプラットフォーム本部 主任技師 佐藤 千文 様


<GSWに女性社員を派遣する意義>


■Global Summit of Women(GSW)とは

1990年にカナダ・モントリオールでスタートしたGlobal Summit of Women(以下、GSW)は、各国の主要都市を会場に開催され、別名「女性版ダボス会議」として知られている国際会議。毎年、80か国以上から約1000人の女性リーダーが集まる。大統領、首相、政府高官、企業エグゼクティブや起業家などが、「女性と経済」大きなテーマとして、様々なセッションで議論を交わす。

【参考】 過去大会のホスト国
2013年 マレーシア(クアラルンプール)
2014年 フランス(パリ)
2015年 ブラジル(サンパウロ)
2016年 ポーランド(ヒルトンワルシャワ)
2017年 日本(東京)
2018年 オーストラリア(シドニー)
2019年 スイス(バーゼル)
2020年 タイ(バンコク)  開催情報:https://globewomen.org/globalsummit/

■GSWに参加してみて


荒金:御社では2013年のマレーシア大会から、継続してGSWに女性社員を派遣されていらっしゃいますね。派遣の目的や意義、派遣生の変化など、派遣事業を通して得られた効果などについてお聞かせください。

角南さん:参加するまでは、海外のほうが日本よりもダイバーシティが進んでいて、女性管理職比率も高いのだろうな、と思っていましたが、実際は日本の私たちと、そうかけ離れているわけではない、ということを知り、とても衝撃を受けました。どの国の方々も「ダイバーシティは取り組んでいるが、インクルージョンは進んでいない」ということをおっしゃっていましたね。

中西さん:派遣が決まったとき、喜びと同時に不安も感じました。「私に何を期待しますか?」と上司に聞いたところ、「その答えは、あなたが自分で探してきなさい」と言われました。継続して参加する中で「自分で決めて提案する」、という大切さを学ぶことができました。

佐藤(ゆ)さん:私は国内の国際会議に出席したことがありますが、スケールが違いますね。「せっかく参加するからには何か持ち帰りたい」、「何か自分に出来ることは?」とビジネス視点で考えることは、普段、職場にいると出来ない体験だったので、非常に良い機会でした。


佐藤(千)さん:昔は、「女性が海外出張なんて危ない!」と言われていたくらいですから、そういう時代が来たのか、と感慨深く思うと同時に、「行きます」と即答しました。しかし、英語が苦手だったこともあり、行ってからも反省することがたくさん。結局3回連続で行きました(笑)

荒金:「言語の壁」は日本人の多くが持っていますね。私は、英語以上に「気持ちの壁」のほうが大きいのではないかと思います。

佐藤(千)さん:おっしゃる通りで、「まず行ってみる」という一歩を踏み出したことは、自分の中で扉が開いた気がします。「行ったらどうなるんだろう」「行くためのテストがあるのか」などと心配するよりも、「行きたいから行く!」と決めること、そして、上手く事が運ぶようにどうやって動くか、考えるようになりましたね。
今までは、さまざまなオファーがあったにも関わらず、「あれも心配、これも心配・・・」「お断りします・・・」と、キャリアを断ってきた過去がありましたが、今は、もう違う。次世代の参加者たちには「せっかく順番が来たのだから、行ってみようよ」、と背中を押してあげたいです。


角南さん:私も同感です。後輩たちにも行って扉を開いてほしい、と思うようになったこと、そのためにも継続してみんながGSWに参加できるよう取り計らうこと、そういう努力をするようになったことは、自分でもびっくりしています。GSWに参加した人にしか分からない、この体験を次に参加する人達にも感じてほしい、と思っています。

荒金:2019年のスイス大会には若手の方々が参加しましたが、帰国後何か変化を感じましたか?

佐藤(千)さん:報告会を開きましたが、「とにかく圧倒されました」と言う声が多かったですね。日本大会(2017年)に参加した人も行きましたが、やはり海外の大会は全く別物だったようです。今まで、目の前の仕事のことしか考えていなかったことを反省し、スケールアップした視野を持つ必要性を感じたようです。

スイス参加者の中に、女性が1割しかいない技術部門に属している人がいたのですが、彼女の変化は驚くものでした。それまで女性だからどう、というのは気にしていない方の方。GSWに参加した直後から「この中にいる1割の女性たちが、ここで活躍している」と存在をアピールすることを商材のプロモーションと同じくらい重要なこととして考慮するようになりました。写真でも女性の活躍が光る配置やアングルを提案しているようです。それぞれの立場で、自分たちが学んできたことをどこで使うのか、模索しながら少しずつ動き始めています。

荒金:素晴らしい変化ですね。GSWでは各国から女性リーダーが登壇しますが、あの壇上に立つ女性がぜひ御社からでてきてほしいです。御社のCDO(チーフダイバーシティオフィサー)の富永由加里さんは、日立グループ国内企業初の女性執行役員ですね。GSWに参加した女性たちが、富永さんに続くことを期待しています。与えられたチャンスを自分のものにしていってほしいです。


<クロスロードダイバーシティ編について>


■クロスロードダイバーシティ編とは


D&Iの理解・浸透を促進するカードゲーム。多様性がある中でおきる悩み、ジレンマ、深刻になりがちな内容をゲームにすることで、楽しみながら、より深く対話を促進することができる。
基本的に1グループ5人で行い、事例を自らの問題として考え、YESかNOか、自分の考えを示すとともに、参加者同士が対話を深めていきます。

■ジレンマを通して考える、職場のダイバーシティ


荒金:佐藤ゆかりさんには、クオリアの開発する「クロスロードダイバーシティ編」カードゲームを用いて、自部門に留まらず組織全体のダイバーシティ推進のため、広くご活用いただいています。導入実施されたご感想や、効果などについてお聞かせください。


佐藤(ゆ)さん:クロスロードダイバーシティ編は、組織に取り入れやすく、効果を感じやすいツールですね。導入のきっかけは、ダイバーシティ推進を始めて2年目のことでした。浸透はしてきたものの、職場から、コミュニケーションが取りづらい、風通しの悪さがある、という声があがってきたのです。詳しく聞くと、「上司は忙しそうだから声をかけづらい」「相談したいことがあるのだけれども、何をきっかけに話したら良いかわからない」「同じ事業部であるにも関わらず、隣の部署が何をやっているか全くわからない」、ということが日常的に起こっていることがわかりました。さすがにこれではマズイと思い、クロスロードダイバーシティ編の体験会に参加したのです。

初対面の人同士が集まる場にも関わらず、素直に自分の意見を言える空気があることに驚きましたね。組織で展開してみようと、ファシリテーター養成講座を受講し、トライアルで部課長層向けにやってみました。ゲーム開始直後は否定的な反応をする方もいたのですが、だんだんと皆さんが前のめりになっていくのがわかりました。「そういう視点があったのか」「最終的にはYESの判断をとったけど、実際はね・・・」「話してみないと分からないね」、と気づきが生まれ、最後は真剣に話しあっていました。

色々な場所で使用していくうちに、「うちの部署で使いたいから、カード貸してくれない?」と多くの引き合いがあり、すぐにカードを追加購入し、現在では様々な職場で使われています。

■パワフルな問いから生まれる新たな関係性

佐藤(ゆ)さん:1チーム5人だけで行うことが多かったのですが、複数チームがあった方が、参加者の多様性や多様な意見を聞くことができると思います。これからはできるだけチーム数を増やして行いたいと思っています。

また、カードの設問は厳選された10問だけあって、ジレンマを感じやすく多様な意見がでて、対話が深まる仕掛けになっていますね。部下の本音を聞いてみたいとき、どこまで踏み込んで聞いたらいいか困っていても、このワークを通してだったら、ゲームの延長で聞くことができるんですよね。


■多様性から知のシナジーを生み出すために


荒金:ファシリテーター養成講座では、自分自身のジレンマを題材としてゲームを作成するワークがあります。この問づくりでは、自分の悩みをテーマとして出す人が意外と多いのです。ゲームにすることで、普段言いにくいことも、この場では出しやすいという雰囲気が作られるのですよね。開発の目的は、多様な人がいる職場でマネジメントに悩んでいる管理職や、マイノリティとして意見を出しにくい人が意見を言いやすくなるように、というものでした。多様な人がいるということは、割り切れない(答えはひとつでない)ことがたくさんあるので、そこを考えるきっかけにしてほしかったのです。それ以上に、対話することの大切さ、対話から生まれる可能性をカードが誘発していると思います。

佐藤(ゆ)さん:面と向かっては言えないことでも、それが言いやすい場になることが、このカードの強みだと実感しています。


荒金:ありがとうございます。そういう意味でも、地道でもいいので、続けるということ、広げるということ、そして浸透させることが大切ですね。対談会場近くの談話室で、クロスロードダイバーシティ編を使ってゲームをしているグループがありましたね。偶然だということですが、タイミングが良すぎてびっくりしました(笑)気軽に誰とでもできるのがこのゲームの良さです。インクルージョンを自然に浸透させるにはうってつけだと思います。

ダイバーシティ推進の成果は数値化しにくく、なかなか見えにくいものですが、佐藤さんの活動は、「浸透」されている状態になってきたのだと思います。本当に素晴らしいことだと思います。多くの方から関心を持っていただいているゲームですが、「外国人」や「LGBT」「不妊治療」「介護」といった設問へのニーズが多く、現在新たな設問づくりに取り組んでいます。今後も、様々な場面で活用いただければと思います。


<インクルーシブな組織作りに向けて>


荒金:最後になりましたが、クオリアではD&IのI(インクルージョン)に実現に力を入れています。そのために様々な研修や手法を提供していますが、皆さまにとって組織におけるインクルージョンとはどのようなものでしょうか。改めて、D&I経営に取り組む意義や重要性、目指す姿について皆さまのお考えをお聞かせください。

佐藤(千)さん:自分に無い意見を理解したり、融合させて新たな価値を生み出すために、自分の中の多様性を増やし、新たな出会いを求めようとする力をやしなっていくことが重要だと考えます。自己肯定感の向上と、健全な自己否定を両輪でまわしていくことが組織におけるインクルージョンに繋がると思っています。組織全体のエンゲージメントと高いパフォーマンスはメンバー一人ひとりの自律的成長とD&I経営が生み出すものと信じています。D&I経営、D&I活動という言葉が不要な会社組織へと成長を遂げたいです。


中西さん:日立ソリューションズという会社の存在意義は、社会イノベーションを起こすITを提供し続けることです。事業そのものが誰かの役に立っていなければならない、ということが大原則。この大原則を推進する上で、D&Iを理解し、マネージャとしてD&Iを常に体現する組織作りをすることは当然のことですし、できていないとビジネスは成り立たないと考えます。

また、IT業界の変化はますます目まぐるしく、予想しがたい状況において、同質性が一番のリスクであることを痛感しています。私自身、全社で未経験のプロジェクトチームを推進するミッションを持ち、新たなビジネスモデル、新たな市場・顧客に目を向け、道なき道を行く活動を始めたばかりということもあり、その成果をあげるためにもD&Iは欠かせないと日々強く実感しています。


佐藤(ゆ)さん:価値観も多様化し、不確実で正解のない世の中といわれるからこそ、今一度、「わかりあえない」という前提に立つことも大切と考えています。 多様化が増すことで、時には意見がぶつかり合っても、否定せずにお互いが理解して歩み寄り、様々な価値観を受容することが、他の誰かを不幸にしないことにつながっていきます。その積み重ねで誰もが自分の個性や強みを最大限に発揮し、自分らしく組織に参画していると感じられれば、それが経営効果の創出につながっていくとものと信じています。

角南さん:組織の中には明文化はされていないけれど、それまでの習慣や暗黙の了解といった軸で 与えられている「役割」があるように思います。インクルーシブな組織が実現すれば、ひとりひとりが与えられた「役割」を演じることに集中するだけでなく、持てるチカラを存分に発揮するようになるのではないかと思います。

荒金:本日は長い時間、色々なお話を聞かせていただきありがとうございました。D&I推進にはトップの強力なコミットメントは欠かせませんが、その推進者となる担当者の役割は大きいものがあります。各職場や拠点にしっかりとD&Iの意義を理解し、熱意を持って進める担当者の方々がいてこそ、大きく前進していくのだと、皆さまの奮闘ぶりをお聞きして、改めて確信しました、
これからもD&Iを推進していく中心的な存在として、皆さまのご活躍を応援してまいります。改めて、本日は、本当にありがとうございました。


左から:中西真生子様、佐藤ゆかり様、佐藤千文様、角南美佳様、クオリア荒金


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