対談

多様性がそこにある(ダイバーシティ)という状態から、そこにある多様性をいかに理解・受容し(インクルージョン)、活かしていくのか。組織のめざすダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を実現するために、本当に効果的な施策とは何か。本企画は様々な企業や個人が取り組むD&Iの現状と未来をリアルに伝えることを狙いとしています。

今回のお相手は、日立ソリューションズ株式会社の皆さまです。日立ソリューションズ株式会社は日立グループの情報・通信システム事業の中核を担うIT企業として、ソフトウェア・サービス事業、情報処理機器販売事業を行っており、12,610人の社員が働く企業です(連結総人数、2019年9月現在)。

クオリアとの関係は合併前の2009年にさかのぼります。GSW(Global Summit of Women)への女性社員派遣事業へのアドバイスをはじめ、管理職向けマネジメント研修やアンコンシャス・バイアストレーニングなど様々な研修や、更にダイバーシティカードゲーム「クロスロードダイバーシティ編」のご活用など、深くお付き合いいただいております。
今回対談にご参加くださったのは、各部門でダイバーシティ推進を担当されている4名の女性リーダーの皆さまです。全2回シリーズの前半は、日立ソリューションズ様のダイバーシティに対する取り組みと成果について、D&Iを推進する企業様に広くお伝えいたします。

左から:角南美佳様、佐藤ゆかり様、中西真生子様、クオリア荒金、佐藤千文様


<プロフィール>
■スマートライフソリューション事業部 プロジェクト統括部 部長代理 佐藤 ゆかり 様 
■クロスインダストリソリューション事業部 ビジネスコラボレーション本部 主任技師 角南 美佳 様
■スマートライフソリューション事業部 ワークスタイルイノベーション本部 センタ長 中西 真生子 様
■ITプラットフォーム事業部 デジタルプラットフォーム本部 主任技師 佐藤 千文 様


<日立ソリューションズ様のダイバーシティ取り組み全体像について>


■ダイバーシティ担当者に任命されたきっかけ


荒金:まずは、皆さまがダイバーシティ推進担当になられたきっかけや、役割についてお聞かせください。

佐藤(千)さん:2013年、当時の部門トップが「ダイバーシティ推進をする」と決め、どこかに人材はいないかと探し、私にお声がかかった、というところです。

荒金:メイン業務と兼務するわけですよね?率直なご感想はどのようなものでしたか?


佐藤(千)さん:最初は、前例がない中「一体何をするの?」と思いました。しかし、「なぜ私が」いうネガティブな気持ちより、「珍しい機会を与えてもらったので、やってみようかな」、という前向きな気持ちの方が大きかったですね。

中西さん:私は2014年、管理職昇格がきっかけでした。昇格自体も、ダイバーシティ推進の後押しがあったと感じていました。「なぜこのタイミングで女性ばかり昇進するのか」と組織を俯瞰したときに、初めてダイバーシティ推進センターの存在を知り、それから意識するようになりました。

佐藤(ゆ)さん:私は2008年、国際女性ビジネス会議に個人参加し、ダイバーシティという言葉と出会いました。「あ、これからは、これ(ダイバーシティ)が必要だな」と確信を持ち始め、それからだいぶ経った頃に組織のダイバーシティ活動のメンバーとしてのお誘いがあり、「ついにきたか」という感じでしたね。

角南さん:私の場合、管理職の内示と同時に任命されましたので、当初は反発する気持ちの方が大きかったですね。管理職になる前から『ダイバーシティ推進も』と言われ、なぜ私が?という感じでした。

荒金:納得できないという気持ちは、抵抗感からですか?

角南さん:そうですね。「管理職昇進もダイバーシティ推進をするため?」と反発する気持ちがありました。しかし、その後、女性管理職15名とともに、外部の専門家から「なぜダイバーシティが必要か」ということを学ぶ機会がありました。その内容がとても響くもので、そこから前向きに取り組もうと思えるようになりました。


■ダイバーシティ推進センターの廃止、その影響は?


荒金:2009年に「ダイバーシティ推進センター」を専任部署として設置後、活発な取り組みをされていますね。情報発信も積極的で、ダイバーシティ活動が大きく前進した印象がありました。それだけに、2017年にそのセンターが廃止されると聞き、とても衝撃を受けました。確かに、各部門において当事者意識を持って行動してもらうことが最終目的ではありますが、「本当になくして大丈夫?」と。実際に廃止された当時はいかがでしたか。
 
佐藤(千)さん:「専任部署は廃止するから、これからは各部門で推進して」と言われた時は、これからはセンターという拠り所が無くなったのだな、と不安に感じました。しかし、私の部門は部門長以下多くの人が、「(ダイバーシティ推進を)言われたからやっているのではない」という気持ちでしたので、大きな影響はありませんでした。


中西さん:私の部門はどちらかというと動きが遅かったので、いよいよ「やるぞ!」となった頃にセンター廃止となりました。「会社はもうやらなくていいと言っている」と消極的な人も、「やっぱりやるぞ!」と積極的な人もいました。双方の議論が起こったことで、逆に皆を巻きこむ良い機会になったと感じています。

荒金:センター廃止により、推進の為の予算は減りませんでしたか?部門毎のコストになる。その辺のご苦労は?

佐藤(千)さん:予算ゼロからいかに予算を増やすか、そのためにはやはり「実績を作る」ことが命題でした。

荒金:ダイバーシティ推進はやってもやらなくても業績に直結しないと思われがちです。鍵となるのは「費用対効果」やコストについての理解を得ることですが、一番の説得材料は何でしたか。

佐藤(千)さん:当時業績が厳しい時期でしたので、何かモチベーションが上がるものがほしかったのです。「ほかのどの部門よりもダイバーシティ推進活動に取り組んでいます!」ということをアピール材料にしようと思いました。

角南さん:私の部門は、ダイバーシティに理解がある上司が多く、意図や企画をきちんと説明すれば予算もつき、比較的スムーズに進めることができました。

荒金:各部門で推進するうえで、上司の理解度は重要ですね。管理職の多くが自部門での推進に賛同したのは、ダイバーシティ推進センターの活動があったからでしょうね。これまでの取り組みにより、認知度や意識が高まっていて、会社として確固たるものがあるからこそですね。

佐藤(千)さん:中西さんの部門では、社内の「働き方改革」という波と、「ITで何を変えていくのか」という本業がうまく合致したと思います。ダイバーシティ推進そのものが「働き方改革」とリンクする性質もあるので、多様な働き方を支える観点から、ビジネスとセットにした方が、説得力も高まりますね。

荒金:そうですね。まさに私が約20年前にアメリカに行ったとき、「なぜダイバーシティ推進が必要なのか」の命題に対し、人材モデルに変化がみられてきたという因子もさることながら、「働き方改革」や「ワークライフバランス」というキーワードが存在していました。既にその頃のアメリカ企業では、これらのキーワードも「多様性」というくくりで取り組んでいた感があります。中でも、多様性の活用や、テレワークなどが進んでいたIBMやモトローラ、ヒューレット・パッカードなど、情報・通信業は、自社のビジネスになると確信していたのだと思います。しかし、私がこれらの情報を日本に持ち帰り、国内のIT企業に説明しても、当時なかなか響かなかった思い出があります。まさに徹夜で死ぬほど働くのが主流の時代でしたから。



■チーフ・ダイバーシティ・オフィサーの役割と意義


荒金:2019年度は、日立グループ初となるCDO(チーフ・ダイバーシティ・オフィサー)を設置されました。CDOの役割やその活動内容、影響についてお聞かせください。

佐藤(千)さん:各部門でダイバーシティに関する個別の課題を解決するという狙いはよかったのですが、全社としての統一性が無くなってくる、という課題が出てきました。そこで、ダイバーシティをいかに経営に活かすか、ということを全社で見直し始めたのですが、このことがCDO設置のきっかけだと思います。

中西さん:CDO設置により、相談先ができたことは安心感につながりました。全て倣うわけではないのですが、ある程度正しい方向性が見えてくるので、自部門ではどう動くか、考えるようになりました。

佐藤(千)さん:中期計画を立てる上で、ダイバーシティに関して何に重点を置くのか、ということが明確になったことで、意思統一もされました。CDOを設置することの影響力は大きかったですね。また、女性活躍推進についても、コーチングや上司とのコミュニケーションに関するインタビューなど、様々な動きが始まりました。今まで停滞していたものが、再始動したという印象でした。
有志の草の根活動だったLGBTアライについても話を聞いて重要事項として取り上げていただき、2019年は、LGBTに関する取り組みの評価指標「PRIDE指標2019」で最高位の「ゴールド」取得にたどりつけました。アライメンバーとしてはもっともっと先にあると思っていたので、CDOの存在がD&Iの加速に繋がっていることを実感しました。

荒金:この流れをいかに広げるか、がこれからの課題ですね。ダイバーシティ推進センターを廃止された時は、今後どうなるのだろう、という期待と不安がありましたが、その中でも部門毎に柱となる方が育ってきているのだな、と改めて実感しました。
ダイバーシティ推進担当同士の、横のネットワークはあるのですか?

中西さん:公的なものは無いですが、中心となって部門を超えてつながるメンバーがいて、それが力になっています。

角南さん:次の世代にどう繋げるか、が喫緊の課題ですね。常に新しい風を吹き込んでいきたいです。

<アンコンシャス・バイアスへの取り組み>


■アンコンシャス・バイアス研修の成果


荒金:弊社でアンコンシャス・バイアス研修の担当をさせていただいたのは2018年でした。きっかけは何だったのでしょうか。


角南さん:GSWをはじめ、さまざまな場で「アンコンシャス・バイアス」というキーワードを耳にしたことでした。制度は十分に充実していて、色々なことができる環境が整いつつありました。しかし、アンコンシャス・バイアスを知っていく中で、ダイバーシティはできてもインクルージョンは進んでいない、本当の意味でのD&Iは、まだ達成していないのだと感じました。

荒金:企画を持って行った際の、上司の反応はいかがでしたか?

角南さん:特に抵抗はありませんでした。すでにメディアなどでアンコンシャス・バイアスに関する記事もたくさん取り上げられていましたし。社内のどの部門も取り組んでいなかったため、一番乗りでした。実施した反応はとても良かったです。意外だったのは、社内におけるアンコンシャス・バイアスの事例は「ジェンダー」に特化しているだろう、という予想に反し、「あの部署は○○だ」「若者は○○だ」「年寄りは○○だ」など、部門や世代、年代に関する意見が多く出ました。「あの人は○○が得意だからこうしておこう」と、相手の得手不得手を決めつける、というようなアンコンシャス・バイアスもありましたね。

■ダイバーシティ経営を阻害する「根拠のない思い込み」

荒金:私が最も印象に残っているのは、動画を視聴した際のことです。「育児休暇を早く終え現場に復帰したい」女性社員と「そんなに早く復帰しなくてもいいんじゃない?」という上司との会話のシーンでした。あるグループで「(女性は)そんなにあせらなくてもいいのに」という人がいる一方で、「いやいや最近、女性部下に同じことを言って怒られた経験がある」という管理職もいました。

女性社員に対するマネジメントや育成支援については、思い込みや先入観が出やすいこともあり、自分たちの持つバイアスについて考える良い場面でしたね。研修後の職場展開はどうなりましたか?

角南さん:しばらくの間は職場でも「それってアンコンじゃない?」「アンコンだね」と皆口にしてはいたのですが、やはり時間が経つと意識が薄れてきます。どうやって時々思い出してもらえるかが重要ですが、なかなか習慣にするのは難しいですね。

荒金:確かに。みなさんもそれぞれの職場で展開されましたか?


佐藤(ゆ)さん:私の事業部では内製研修を行いました。相手の考え方や、視点の違いに気づく為に、まず自分のアンコンシャス・バイアスを意識しよう、という趣旨で行いました。管理職層も、体感することで、「あっ!これってアンコンシャスバイアス?」という気づきがあったようです。その時、ちょうど医科大の入試試験に関する事件(ジェンダー差別問題)もあった事から、アンコンシャス・バイアスへの大切さを再認識されていました。


■「アンコン」はD&I推進企業に不可欠なキーワード


荒金:最近は「アンコンシャス・バイアス×○○」という研修ご依頼が増えています。ハラスメントやマーケティング、働き方改革など、それぞれの領域にあるアンコンシャス・バイアスに対処するというものです。特に、炎上するCMや情報発信をみると、その根底にアンコンシャス・バイアスが潜んでいるなと感じることが多くあります。御社はIT企業なので、特に、ビッグデータの活用やアルゴリズムの設計やAIなど、開発のプロセスにアンコシャスバイアスがないか、多様な視点が必要になってきます。アンコンシャス・バイアスは職場の関係性だけではなくて、組織の意思決定にも重要なテーマでもあります。アンコンシャス・バイアスに無自覚であることが、いかに危険であるか、そのことはぜひ理解していただきたいですね。

全2回シリーズ後半は国際会議であるGSW(Global Summit of Woman)への参加、カードゲームを使用したダイバーシティ推進の社内展開について、さらに皆さまの今後の展望などについてお伺いします。ぜひ、後半もお読み下さい。

左から:角南美佳様、佐藤ゆかり様、中西真生子様、佐藤千文様、クオリア荒金

ダイバーシティ対談<後半>はこちらからどうぞ