【対談】この人と語る!多様性の未来

髙津玉枝様と荒金雅子

左:株式会社福市 髙津玉枝様  右:荒金雅子


今回の対談相手は、株式会社福市の代表取締役社長・髙津玉枝様です。
髙津社長は、「フェアトレード」という理念を、日本ではまだあまり知られていなかった2000年代前半から取り入れ、開発途上国で厳しい環境に置かれている生産者を支援しながら、高品質で洗練されたデザインの生活雑貨や洋服を日本に届け続けて来られました。本対談では、髙津社長の歩みとともに、「エシカル消費」やSDGsという概念をどう捉えるかなどについてお話を伺いました。


株式会社福市 代表取締役社長 髙津 玉枝(たかつ たまえ)

大学卒業後、富士ゼロックス(株)(現・富士フイルムビジネスイノベーション(株))に営業職として入社。その後、雑貨商社を経て、マーケティング会社を設立。90年代後半にフェアトレードの理念と出会い、2006年に株式会社福市を設立。2012年にフェアトレードのセレクトショップ Love&sense を阪急百貨店うめだ本店にオープン。
現在、京都市イノベーション・キュレーター塾をはじめ、各地の企業や学校などで講演・セミナーを行う。
Love&senseのオンラインショップはこちら

【目次】
「フェアトレード」という理念との出会い
「走りながら考えることもできる」という言葉に背中を押されて
被災者と全国の人たちの気持ちをつなげるEAST LOOP
この地球上にどんな社会課題があるのかを知ることの大切さ
小さな一歩でも行動することで見えてくるものがある

「フェアトレード」という理念との出会い


荒金雅子

本日はお忙しい中、ありがとうございます。一度じっくりお話を伺いたいと思っていましたので、とても嬉しく思っています。

今日は髙津さんのこれまでの歩みと現在の活動についてお聞きしながら、小さくても何か一歩踏み出したいという若い世代の人たちの背中をそっと押すような内容になるといいなと思っています。


髙津社長

今日はよろしくお願いします。


荒金雅子

さっそくですが、髙津さんが最初につくられた会社は、家庭用品やインテリア雑貨などのマーケティングを行う会社だったんですよね。


髙津社長

そうなんです。大学卒業後、大手企業の営業職を経て、輸入雑貨など扱う商社に入社しました。その会社を辞めて独立し、マーケティング会社を立ち上げたのが91年のことでした。


荒金雅子

大手企業を辞めて転職、さらに独立とは、思い切りがいいですよね。


髙津社長

当時は、女性が生涯やりがいを持って働き続けるのが難しい時代でした。女性であることを理由にキャリアをあきらめたくないという気持ちが大きかったと思います。

もう一つ、若い頃に起業して上場させた祖父の影響もありました。「ビジネスとは自分の好きなことが実現できる手段だ」ということを、子どもの頃から感じていたんだと思います。


荒金雅子

なるほど。その後、フェアトレードという概念に出会われたのは、いつ頃でしたか?


髙津社長

90年代後半、デフレでだんだんモノが売れにくくなっていった頃でした。原価をできるだけ安く抑え、一方でどんどん消費させて、それが次々とゴミとなっていくというサイクルに疑問を感じ始めたのです。


荒金雅子

今でこそフェアトレードという言葉は日本でも普及しましたが、その頃はまだ一般的に知られていませんでしたよね。


髙津社長

はい。私自身も世の中の流れの中で、「できるだけ安く」という思考になってしまっていました。でもある時、この経済発展の裏側には、労働力を搾取されている人たちがいるということを知り、自分の仕事はこれでいいのだろうかと疑問を持ったのです。
そんなときにフェアトレードという考え方に出会い、その答えを見つけるべくNGOが主催するインドのスタディツアーに参加しました。


荒金雅子

インドまで行かれたとは!その行動力はさすがです。


髙津社長

現場に飛び込んで目の当たりにしたのが、染色工場に積まれていた汚泥の山でした。
化学物質を含む廃棄物が、工場の敷地で野ざらしになっていたんです。汚泥は雨に打たれて化学物質が地下に浸透します。

一方で、その地域に住んでいる人たちは井戸の水を汲み上げて飲んでいるわけです。私たちが安さを求めることによって、そこに暮らす人々に劣悪な生活環境を強いている。そしてこういう現状が流通のしくみの中にたくさん紛れ込んでいる。そのことに衝撃を受けました。

日本に暮らす消費者にこの現実を伝えたい、そして途上国の人たちを支援できるような商品を、マーケティングの力で新しい価値に転換させて提供したいと考えたのです。
そこで取引のあった企業を口説きに回りましたが、多くの企業が「それって儲かるの?」というような反応でした。

今ではCSR(企業の社会的責任)などの言葉が一般的になり、サプライチェーンの人権監視やダイバーシティ&インクルージョンの推進、環境への配慮などという企業の社会性と、収益性を両立させることは経営上においても重要なことだと理解されています。
しかし当時は、ほとんどの企業にそのような認識は薄く、「儲かりさえすればそれでいい」という考え方が普通だったのです。

「走りながら考えることもできる」という言葉に背中を押されて



荒金雅子

2000年代前半というと、ヨーロッパではすでに社会課題に向き合う企業に投資をするという流れがありましたが、日本ではまだそういう意識は薄かったと思います。そんな中での行動は、相当なチャレンジだったと想像します。


髙津社長

そうですね。当初は自分で起業することは考えていませんでした。商品の品質面の不安もありましたし。
タイミングよく国際NGOが日本での立ち上げに参加することができました。海外でフェアトレード商品を扱う店舗の実績を持つそのNGOを通じて、日本で店舗を作り広めていこうと考えたこともあったのですがうまくいかず、それなら自分でやるしかないと決断しました。

一方で、フェアトレードの認証について少し疑問をもちました。認証を取るには英語によるコミュニケーションはもちろん、ITスキルや資金が必要です。それを途上国の貧困な環境にある人たちが取得できるかは疑問でした。疑問を抱えながらの起業は迷いが生じると思いフェアトレード認証を行っているドイツの本部まで、ディレクターに会いに行きました。


荒金雅子

とにかく話を聞きに行ってみようということですね。髙津さんのそういうところ、すごく共感します。何か答えが見つかりましたか?


髙津社長

はい。そこで言われたことは「完璧なしくみを求めて悩んでいる間も、苦しんでいる人がいる。走りながら考えることもできるはず」ということでした。
そう言われて、自分が認証を取りたいとか、納得できるものを作りたいと考えていることそのものが保身だと気づいたんです。

そこで「とにかく日本にフェアトレードという考え方を浸透させ、それがかっこいいと思われるような文化をつくろう」と考えて、2006年に株式会社福市を立ち上げて活動を開始しました。


荒金雅子

人脈やノウハウもない中で、どのように今の福市の形につながっていったのですか?


髙津社長

立ち上げ当時から考えていたことは、単にかわいそうな人たちからものを買ってあげるというのがゴールではないということでした。

私たち先進国の消費社会において、みんなが知らないうちに社会の不平等な構造に加担しているということを広く伝え、そしてフェアトレードという理念に誰もがコミットできる形にすることだったんです。


荒金雅子

なるほど。まさにフェアトレードという理念は、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方にも深く関わりがありますね。多様性があふれるこの社会において、国籍や性別など問わず、それぞれの持っている力をその人らしく社会で活かしていくことができる取り組みであり、さらにそれは世界の諸地域における人々の多様な生き方を尊重し、全ての人たちの人間らしい生活につながるということだと思います。


髙津社長

その通りです。そこでまずは多くの人に知っていただきたいと考え、誰もが知っている大きな商業施設での出店を目指しました。運良く名古屋ロフトを皮切りに、表参道ヒルズ、各地の百貨店に期間限定出店や催事出店ができる機会に恵まれました。


荒金雅子

商品は売れましたか?


髙津社長

最初のうちは全然…(笑)人件費だけかかってしまって。
でもそこで落ち込むわけにいかないと、メディアにお願いして記事にしてもらったり、店舗でアンケートを取ったりしました。


荒金雅子

最初は投資。続けることが次につながっていきますね。


髙津社長

そうそう。チャンスの神様っていつ来るか分かりませんからね。そう信じて続けているうちに、認知度とともに売上も少しずつ上がっていき、2012年に阪急百貨店うめだ本店に初の直営ショップLove&senseをオープンしました。


荒金雅子

今、Love&senseのお店に行くといろいろな国の商品が並び、その一つひとつにストーリーを感じます。その商品を買うことによって、自分もそのストーリーの中の一人になったような気がします。
さらにアクセサリーやバッグを身につけることによって、平和や人権に対してきちんと考えているという意志の表明、そして自分への勇気づけになるように思うんです。


髙津社長

それはまさに私たちが伝えたい価値の一つです。
フェアトレードとは、実は「途上国の人々の生活や労働環境を改善する」という一方通行の取り組みではなく、私たちも買い物を通して作り手の生活を支えられることに喜びを感じたり、さらに地球上の様々な社会課題に目を向けるきっかけを得られたりという、お互いに幸せになる取り組みなんです。

荒金さんのように、商品を身につけることで、私はこんなことに気を遣ってものを選んでいるとか、こんな未来があればいいという、表現の一つと捉えていただけることも嬉しいですね。
お店に並ぶ商品は、サイズや色が微妙に違ったりするのですが、その不揃いも手作りゆえの温かみ。お客様はそれを喜んでくださいます。そこにはお金のやり取りだけではない、生産者との多様で豊かな関係性が生まれています。

それがまさに私たちの掲げるミッション「持続可能な社会に向けて行動する人を増やす」ということにつながっていますし、ダイバーシティ&インクルージョンという理念とも共通しています。

被災者と全国の人たちの気持ちをつなげるEAST LOOP


髙津玉枝様と荒金雅子

Love&senseの商品(ウクライナ支援特別仕様のハートブローチ)


荒金雅子

2011年の東日本大震災は、髙津さんにとっての一つの転機となったとか。


髙津社長

はい。私自身も阪神・淡路大震災を経験した者として、震災直後から何か力になれることはないだろうかと考えました。そして1ヶ月後には現地に入り、フェアトレードの考え方を軸に被災者の方々にアプローチしました。


荒金雅子

現地での反応はどうでしたか?


髙津社長

震災直後はこちらの意図が全く伝わりませんでした。今でこそクラウドファンディングや復興支援など、「買って応援する」という考え方が一般的になりましたが、その頃はそういう価値観がまだなかったんです。「被災者に仕事をさせる気か」というようなお叱りの言葉も受けました。

ただ私の中には、途上国と人たちとのフェアトレードの取り組みを通して「人から施されるだけでは人は生きていくことができない。人としての尊厳を持つことこそが生きる力になる」という確信がありました。
そして震災の約2ヶ月後、再び被災地を訪れた時に、今こそそれが必要とされている時だと感じたのです。


荒金雅子

プロジェクトが本格始動したのが震災の4ヶ月後とお聞きしています。


髙津社長

2011年7月に東北地方のNPO法人と協力して、被災地の女性たちが、かぎ針編みでものづくりに取り組むEAST LOOPというプロジェクトを立ち上げました。仲間とおしゃべりをしながら手仕事をすることによって、震災による悲しみや辛さを癒し、少しでも前向きな気持ちになれること、そして作ったものを届けることによって、誰かから「ありがとう」と言ってもらえること。それは「人の尊厳を取り戻す」ということでもありました。


荒金雅子

働いて収入を得るということが、精神的な自立やQOL(生活の質)の向上に大きく影響しているということですね。EAST LOOPの活動は現在も続いていますし。


髙津社長

みなさんが続けてくださったおかげで、編み手の方たちのスキルも向上し、5年目からは現地のチームが運営しています。今では毛糸メーカーからサンプル編みを受注するまでになりました。

立ち上げ当初からのコンセプトは「つなげていくこと」でした。被災者同士、また被災者と全国の人たちの気持ちをつなげ、それが循環していくような形になればと。そういう意味では、目指すべき一つの姿にたどり着いたような気がします。

この地球上にどんな社会課題があるのかを知ることの大切さ


髙津玉枝様と荒金雅子

Love&senseの商品について語る髙津社長と荒金


荒金雅子

SDGsという考え方が普及すると同時に「エシカル消費」という言葉もよく聞くようになりました。この言葉をどう捉えるか、難しいところがありますよね。


髙津社長

「エシカル」って、なんとなくふわっとした言葉なんですよ。ちょっとしたことでも「エシカルです」と言われると、何となくそんな気がしちゃうんです。


荒金雅子

確かに、フェアトレード商品だけでなくリサイクル品やエコマーク付き商品、地産地消品、寄附付き商品など、エシカルと言われるものは本当に幅広いですよね。


髙津社長

そうなんです。だからこそ見えにくくなってきていて、中にはマーケティングツール的に扱っているところ企業があったり、それってエシカルって言えるの?みたいな商品もあり、悩ましいところではあります。


荒金雅子

私たち一人ひとりが、どんな循環型社会をつくることが人々の幸せにつながるのか、きちんと考えることが大切ですね。
そうすると、あるべき商品や流通の形も見えてきますし、何をもってエシカルというのかということも、もう少しクリアになるように思います。


髙津社長

そうなんです。だからこそ「知る」ということが大切だと思います。この情報化社会は、アルゴリズムによって私たちをより狭い価値観や興味関心の中に誘い込もうとします。
そういうものから解き放たれて、俯瞰的な視点から「世界で何が起きていて地球上にはどんな社会課題があるのか」を見てみる。それによって気づくことがあると特に若い方たちに伝えたいです。

小さな一歩でも行動することで見えてくるものがある



荒金雅子

今後どんなことにチャレンジしていきたいと考えていらっしゃいますか?


髙津社長

まず一つは、市場に流通している商品には、どんな背景があり、どんな労働に支えられているのかについて、消費者がきちんと学べる機会を作りたいと思っています。

もう一つは、企業に対する理解の促進です。漠然としている「エシカル消費」とかSDGsという言葉の全体像をきちんと理解し、企業としてどんな取り組みができるのかを正しく見いだせるような機会を作りたいですね。


荒金雅子

長年、マーケティングや流通に関わられてきた髙津さんだからこその視点だと思います。「社会が変わるためには、小さくても何か行動することが大切」ということでしょうか。


髙津社長

はい。初めからパーフェクトじゃなくていいんです。まずは全体像を理解して、小さな一歩を踏み出してほしいと思っています。
例えば百貨店のバイヤーや企画担当の人たちに向けてセミナーをすると、みなさんは共通して「環境によくないものは売りたくない」という気持ちを持たれています。でも完璧を求めすぎて、どうすればいいか分からないというような声もあって。


荒金雅子

先ほどの髙津さんの話にもありましたが、最初から完璧になんてめざさなくていい。気づくということから始めることが大切だと思います。
知ることによってものごとの見え方って変わりますから。


髙津社長

そう。そのためには、いろいろな分野や立場の人たちと対話をすることが大切です。より複雑化するこの社会において、多様な視点や価値観に目を向け、理解しようと努力する中から気づきや学びが生まれ、そこから自分なりのアクションが生まれます。ほんの小さな一歩でも、行動することによって感じることがいっぱいあるはずですから。


荒金雅子

まさにダイバーシティ&インクルージョンの理念とつながります。今回の対談を通して、特に若い世代の人たちに「まずは自分なりの方法で自分ができる範囲でアクションを起こせばいいんだよ」ということを伝えられたらいいなと思っています。


髙津社長

できることからやってみるということです。これからも若い人たちが行動を起こせるようなきっかけを提供していきたいと思っています。行動変容の小さなタネを提供する、みたいなね。


荒金雅子

フェアトレードやエシカル消費という理念は、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方と共通する部分がとても多く、それは働く女性の権利にもつながっていると実感します。女性としてどう生きるのか、そして人との関わりの中で自分をどう役に立たせるかということではないかと。

実は髙津さんと初めて会ったのが吉田晴乃記念のイベントでした。その時に語られた「経済の新しい成長のかたちを女性が牽引する」という言葉がとても好きなんです。その言葉をきっかけに髙津さんとつながることができてとても光栄です。

これからも一緒にその理念を実践していきましょう!本日はありがとうございました。


髙津社長

はい、共にがんばりましょう!ありがとうございました。

Love&senseのオンラインショップはこちら


【数量限定】ウクライナカラーのハートブローチ(ウクライナ支援寄付つき商品)はこちら


対談後の株式会社福市の髙津様と荒金雅子

ご対談ありがとうございました!


お気軽にお問い合わせください

訪問・ご来社、オンライン会議でも承ります。

まずはお気軽にご相談ください。

  • 資料ダウンロード
  • お問い合わせはこちら