ダイバーシティな日々

株式会社クオリアの荒金です。

ハーバートビジネスレビュー3月号にたいへん参考になる記事がありました。

“ダイバーシティ&インクルージョン”のインクルージョンに関心が集まる背景。
心理的安全性やアンコンシャス・バイアスを重視する理由がよくわかります。

D&I推進は、業績や利益にために行うのではなく、すべての人の人権を尊重し活躍できる土壌を作ることが、組織の持続的な成長をもたらすという確信によってこそ、成果を生み出すのだと感じました。

以下、簡単なサマリーです。気になる方はぜひ原典をご確認ください。

ハーバード・ビジネス・レビュー2021年3月号
「ダイバーシティが企業にもたらす真の利益-経済効果よりも学習プロセスに価値がある」


ハーバード・ビジネス・スクール教授 ロビン.J.イーリー/
モアハウスカレッジ学長 ディビット・A.トーマス著

筆者らは、25年以上前からダイバーシティの理解と活用によって革新的な方法を採用する企業こそ、多様性に富む従業員構成のメリットを十二分に享受できると論じてきた。

学習と効果のパラダイムとは「ダイバーシティに対する学習志向(特定のアイデンティティグループの一員としての経験を踏まえて、業務や製品、ビジネスプロセス、組織の規範を見直す力)を育めば、企業の効果を高めることができる」というもの。

しかし25年近くたっても、多くの組織でダイバーシティに対する学習志向は定着しておらず、成果を享受するには程遠い状況となっている。
「ダイバーシティを加えて混ぜる」アプローチで従来通りの事業運営を続けても、自社の効果や財務業績が飛躍的に向上するわけではない、また過度に単純化したビジネスケース(採用されたプロジェクトが妥当かどうかを説明する資料)には、説得力はない。

信頼性のある強力なビジネスケースにするためには以下の3つが必要。
1.ありきたりな俗説ではなく、しっかりとした経験に裏付けられた結論に基づいてダイバーシティを追求すること
2.株主価値の最大化が最も重要という考えを捨て、成功の概念を広げ、学習やイノベーション、創造性、柔軟性、公平性、人間の尊厳までを成功の概念に加える
3.人口統計学的なダイバーシティ(ジェンダー・人種・年齢・障害の有無等)を高めても、それだけで効果が高まるわけではないとリーダー自身が認識すること

●既存のビジネスケースの問題点は・・
・女性取締役の数を増やせば経済効果を得られるわけではない(*取締役会の決議事項が一般的には自社の最終損益に大きく関わっておらず、直接的あるいは絶対的な影響を及ぼすには至っていないことは見過ごせない問題)
・人種的なダイバーシティが企業の財務業績にポジティブな影響を与えるという調査も、精査にたえられるものではない。
・多様性と業績の関係は、多様性に富むチームかどうかということよりも、下記の要素があるかどうかの方が大きい。
 ①メンバーがチームの機能について熟考し議論ができる
 ②人種間の職位の差が最小限に抑制されている
 ③「チームが学習を重視している」ことが職位の高低に関わらずそれぞれのアイデンティティグループに浸透していること
 ④チームがメンバー間の差異を無視したり否定することなく、その差異から何かを学ぶ方向にメンバーを導いていること
 
質問や平等主義、学習を促す土壌がない場合、多様性はチームが持つ力とは無関係、あるいは逆効果になる。

今日、進歩的な企業の多くは、ダイバーシティの一歩先を行く「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げるようになった。インクルージョンを重視し多様性を尊重するのはよいことだが、「権限の付与」や「貢献を評価し、昇進できる機会を用意」することこそがより重要である。

<学習と効果のパラダイムに転換するために役立つ4つの行動>
①信頼関係を築く
・従業員が自由に発言できると思える安全な職場を作り、信頼構築する
・そのためには率直な会話を促す雰囲気をつくり、自分自身だけでなく他社の弱みに接しても平静を維持しなければならない。従業員に心理的安全性をもたらし、信頼を勝ち得ていれば、2つ目のアクションに向けて好スタートを切れる
②差別や抑圧の構造と積極的に闘う
・従業員の成長力をそぐ、様々な差別や抑圧と闘うために具体的な対策を講じる段階では、個人と組織の両方が構造的変化を目指して学習しなければならない。
・リーダーの変容がカギ
差別と抑圧の構造を解体するには、研修よりもまずリーダー自身が、心情、意識、行動面で変容することが重要。自身の変化を自社の本質的で恒久的な変化に転換しなければならない。リーダーが学習すれば、抑圧を受ける側が抑圧をする側の多数派を啓もうする負担も減る。
・特定のグループの成長や成功の機会を妨げる一方、別グループに肩入れしていないかの調査を行う。リーダーは自分の盲点を認め、自分自身の経験を活かし、組織全体の学びと構造変化に拍車をかける。

③幅広い行動様式と意見を受け入れる
・3つ目のアクションは、自社の組織規範が特定の行動様式の抑制や特定の意見の封じ込めに、暗黙のうちに絡んでいる可能性を積極的に理解しようとすること。
・例えばその企業の象徴的なリーダーが白人男性で強気な発言によって尊敬を集めている場合、強気な発言によって不利益を被りがちな女性や黒人男性がジレンマに陥る。
 強さを見せることも見せないことも、どちらにしても、つまはじきや昇進機会の喪失というリスクを負うのだ。
・企業に求められるのは、フィードバックや評価基準を、グループの固定観念ではなく、正当な職務要件に結び付けた業績管理制度である。

④文化的な差異を学習材料にする
・従業員が組織内外で経験することが、いかにアイデンティティーグループに起因しているかについて率直な話し合いを促し、そこから教訓を導き出す。
・前述した3つのアクションが実行されている場合、組織の中に文化的な差異から学習しようという姿勢が生まれる傾向が強い。
・人種などの差異が対立を生む境界線を越えて、弱みをさらけ出した時に、批判されたり拒否反応を示されたりするのではなく、受け入れてもらえれば、人間関係は強まる。文化的に多様なチームでは、人種の差異から学ぶ経験そのものが業績を高めているのだ。

経済効果との関係という文脈でしか、ダイバーシティについて正当な議論ができないと、不平等な問題を軽視しやすくなる。実際に各種研究では、ダイバーシティを経済効果と結びつけると、平等自体が重要という意識が希薄化し、社会的意識の高い投資家がその意義を推進できなくなるばかりか、かえってバイアスを強めかねないことが明らかになっている。
学習と効果のパラダイムを本当の意味で習得したチームは、同質性とは単に多様性より面倒が少ないだけで、多様性より優れているわけではないと理解するようになる。

ダイバーシティで経済効果を得られるビジネスケースは確かにあるが、「過小評価されているグループへの投資を正当化するには、経済的根拠がなければならない」、という意味がそこに潜んでいるならば、筆者らは違和感を覚える。人間性の犠牲の上に企業利益がなりたっているならば、その代償は大きすぎる。

人間のいかなるグループであれ、その能力と尊厳を肯定し敬意を表すことに、なぜ経済的根拠が必要なのか。我々はしかるべくダイバーシティに投資しなければならない。そうすることが、自分だけでなく他者の人間性を尊重し、自分達の人生を意義あるものにするからだ。

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