【対談】この人と語る!多様性の未来

井上博史様と荒金雅子

左:三菱電機トレーディング株式会社 井上博史様  右:荒金雅子


三菱電機トレーディング株式会社は、三菱電機株式会社の資材調達と国際取引の一翼を担う会社として2000年に発足した会社です。お客様のニーズに合わせた様々な資材の調達・供給をグローバルで実現するために、人と人、人とモノを「つなげる」ことに力を注ぎ、人材開発、育成についてさまざまな取り組みをされてきました。
今回は、取締役総務部長 井上博史様に、未来を担う人材の育成や多様な人を活かす能力開発の考え方についてお話をお伺いしました。


三菱電機トレーディング株式会社 取締役総務部長
人材開発センター長
井上 博史(いのうえ ひろし)


■職歴■
1988年 三菱電機株式会社へ入社 
2003年 ルネサステクノロジ株式会社へ転籍
2011年 三菱電機株式会社へ転籍。人事部、研究所、製作所勤務
2020年 三菱電機トレーディング株式会社 取締役総務部長

【目次】
世の中の動きに常に敏感に
自分の意見を伝えることで関係性が良くなる
支持者になるか支援者になるか
強みは「ものづくり」ではなく「人づくり」
多様性を束ねるリーダーが組織を強くする


世の中の動きに常に敏感に


荒金雅子

本日はお忙しい中、ありがとうございます。
三菱電機トレーディング株式会社様は、これまでにも様々な取り組みをされてきたと伺っています。これまでのお付き合いの中で井上様自身も人材開発、育成について熱い想いをお持ちだと感じていました。

今日はぜひ、井上様のこれまでの取組みも含めて、いろいろお話をお伺いしたいと思っています。


井上博史

私はもともと三菱電機に入社し、総務人事部門で仕事をして来ました。三菱電機の社内研修は充実していましたが、世の中の動きにもっと敏感でありたいと、個人的に社外セミナーに参加していました。
外部の1年間にわたる長期セミナーに参加する機会があり、様々な企業の方と一緒に学ぶことで大いに刺激を受け人脈も広がりました。その経験から世の中の動きに対して敏感にアンテナをたて、新しい研修を取り入れたいという想いを強く持つようになりましたが、なかなか実現には至りませんでした。

三菱電機トレーディングにきてからは、自分の思っていることを、経営幹部と相談して実現することができています。前社長も現社長も外部の情報収集には非常に敏感な方です。研修だけではなく新聞等に掲載されている情報についても「これ、うちでも考えてみては?」と積極的に提案されることが多く、その中から新しい制度として採用した施策もあります。


荒金雅子

以前、関西の事業所におられたときに面白いプログラムを取り入れたと伺いましたが、そのことをお聞かせいただけますか。


井上博史

はい、当時勤務していた事業所でコミュニケーションが課題として挙がっていましたが、実際にどのような解決策を立案すればよいのか具体的なイメージが出来ませんでした。
たまたま当時の所長のお知り合いの方から、「EMERGENETICS」(個人の考え方や行動特性のタイプを診断し色で表す)という分析・研修を紹介していただき、大変面白そうな内容だったので企画したところ、当時の所長もすぐに賛成してくれました。管理職向けに丸1日かけて研修しましたが、これが非常に好評でした。お互いが「色」で識別され、様々な場面でどのように考え、どう行動するのかをケーススタディで話し合うものでしたが、相互理解が非常に深まり、研修後の会話にもよくこの研修のことが出てくるようになりました。

この経験がとても貴重なもので、研修の内容もさることながら、こういう手法や効果的な研修が世の中にはたくさんあるのだ、ということを改めて理解することができました。経営トップの考えにも恵まれて、会社が必要としていることを比較的自由にやらせていただけた、とてもありがたい経験でした。


荒金雅子

研修は意識や行動を変えるきっかけにすぎませんが、どのような研修をするかは、実はそのあとの実践に大きな影響を与えますね。その人の中にある変化を起こすため、ちょっとしたなにかを投げ込んだり場を作ったり、知らない人たち同士がお互いに関係性を持つことによって変化が起きます。場作りときっかけ作り、そこから自分たちでやっていこうと思えるように送り出すことができるかですよね。

弊社では、2014年から本格的にアンコンシャス・バイアス研修を提供していますが、ここ数年は特に心理的安全性の高い組織づくりの観点から、一段と関心が高まっていると感じています。御社へは一昨年の社長をはじめとした役員研修や管理職研修から始まり、昨年は全社員に向けて研修を提供させていただきました。終日をかけて社長自らが受講される企業は本当に少ないのですが、社長の意気込みをとても強く感じました。
今回の研修の取組みのきっかけや狙いなどはあったのでしょうか。


井上博史

アンコンシャス・バイアス研修も経営トップからの提案でした。こういう研修があるようだからやってみたらどうかと。
弊社では、私が着任する以前からハラスメント関連の研修に力を入れていて、2017年から*360 度評価も取り入れていました。毎年eラーニングも実施していましたが、もっと受講者に共感してもらえる研修はないかと考えていました。

*360度評価:一人の従業員に対してさまざまな関係者が評価を行う方法を指す。上司や人事担当者だけでなく、同僚も評価を行うのが特徴。
(参照:日本最大級の人事ポータルHR pro「『360度評価』とは? 人事が知っておきたいデメリットや評価項目、評価方法などを解説」)

荒金雅子

受動的なものだけだと、やっぱり一過性になりますよね。


井上博史

はい、そんなときに、アンコンシャス・バイアス研修のご提案がありました。やはりトップの決断は重要ですね。やるなら、しっかり時間をかけてというのがトップの意向でしたので、丸一日の研修としました。

まずは管理職層から始めましたが、受講者からはとてもよい反応をもらいました。一方で「管理職だけが受講することでよいのか」、「全社員が知っておいたほうがいいんじゃないか」という意見も多く、翌年には全社員に研修を実施することになったのです。


荒金雅子

アンコンシャス・バイアスは、力関係のある中ではどうしても管理職の問題が大きくクローズアップされます。実際には、「いつでも・どこにでも・誰にでもあるもの」ですが、一般社員の中には「上司の問題」と考える人も少なくないようです。


井上博史

一般社員にも感想を聞いてみたのですが、自分のアンコンシャス・バイアスに気付いたという意見が多くありました。ハラスメント対策やコミュニケーション強化は上司がやるべきことで、部下はやってもらう立場と考えがちですが、アンコンシャス・バイアスは誰もが持っているもので、社員ひとり一人が自分も持っているかも知れない、と気づいてもらえたのはよかったと思います。

自分の意見を伝えることで関係性が良くなる


対談中の井上博史様と荒金雅子
井上博史

ハラスメントは、実際には上から下へだけでなく、下から上、横の関係でも発生します。
新入社員研修の中でハラスメントの話をしますが、新入社員のほとんどは自分がハラスメントをする側になるなんて想定してないと思います。けれど、アンコンシャス・バイアスの視点で考えると、同期の間でもあるし、若手が上司や先輩に対して行ってしまうこともあるわけです。つまり誰もがやる側になる可能性があることを全ての社員に理解してもらうことが大切だと考えています。


荒金雅子

上司・部下双方が同じ共通の土台を持つということはとても重要ですね。


井上博史

ハラスメントやアンコンシャス・バイアス研修で気を付けたいのは、注意が上司にのみ向かってしまうことです。研修が終わってから職場に戻って、「私の上司はできている・できていない」のみを考えるのではなく、自分の言動についても振り返ってみるという、ひとり一人の行動に変化が出てきたらいいと思っています。


荒金雅子

アンコンシャス・バイアス研修で、多くの社員の方が「自分たちの中にもあるんだ」という意識をすごく持っていただいたように感じています。

実は、研修の中で印象に残る話がありました。ある方が研修の準備をしていてプロジェクターの設定がわからず困っていた時に、役員の方がかわりにセッティングをしてくれたそうです。「すごくありがたかったけれど、本当はやり方を教えてもらいたかった。そうすれば次から自分でできるから」と話されました。


井上博史

なるほど、ご本人以外、なかなか気づかないことですね。


荒金雅子

「では、そう伝えれば良かったのでは?」というと、「役員に対してそんなことは言えません。せっかく代わりにしてくださっているのに、やり方を教えてくださいとは言えませんでした」と。それこそが「力のある人とない人の関係性」だと思います。
私たちは相手に対して「言えばいいじゃない」と簡単に言いますが、少数派の人や相手より下の立場の人は、その一言が言えないのです。


井上博史

まさにおっしゃる通りだと思います。


荒金雅子

ハラスメントもそうですが、Noを示すことや自分の意見をきちんと伝えることが、一歩踏み込んだ関係を作っていくことにつながります。「何か言ったらよくない結果になるのでは」という無意識の思い込みがあると、関係はよくなりません。お互いに一歩引いてしまい、まるでハリネズミのような状態です。お互いに近づきたいけど、不用意に近づくと相手を傷つけてしまうのでは、という恐れや不安があって距離を置いてしまっている状態です。

アンコンシャス・バイアスの研修を皆さんに受けていただくことで、勝手にバリアを作っている自分自身の思い込みを取り除く、そういうことにもつながっていけば良いなと思っています。


井上博史

そうですよね。「言ってくれれば」というのは、優位側の意見だと思うんです。上司と部下という関係においては、部下側からは、言いにくいことのほうが多いと思います。上司側からすると、重要な事項であればあるほど言って欲しいのですが、実際は言えない度合いが高いようです。

社内では、周囲で気付いている人、相談を受けた人がいるなら行動してください、とお願いしています。気付いている人、相談を受けた人が困っている人の背中を押す、あるいは一緒に相談にいくなど、他人事にしないようにお願いしています。

支持者になるか支援者になるか



荒金雅子

無自覚にハラスメントをしたりアンコンシャス・バイアスを発動する「行為者」がいて、それを受ける側の「当事者」がいます。そして、それを見ている「傍観者」の人々がいます。この傍観者である人たちが、沈黙したり一緒に笑ったりすることで、行為者の側につく「支持者」になってしまうのです。
共犯とはいいませんが、周囲の人達がどのような態度をとるかによって、当事者がより深く傷ついてしまうこともあります。行為者が力のある人だった場合、言いにくいこともありますね。だからといって見て見ぬふりをするのではなく、受けた側の人の立場に寄り添って支援をする相談に乗る、あるいは応援するようにする。そうすると「支援者」になれますよね。

*LGBTQでアライ(ally)という言葉があります。LGBTQの人たちを理解して応援しますという立場の人たちを意味しますが、アンコンシャス・バイアスにおいても支援者・応援者が増えていくことが、結果としてそうしたことを許さない雰囲気にもつながっていきます。今回の研修では、そこを皆さんにしっかりとお伝えしました。

*LGBTQ:レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字L・G・B・Tに加えて、自分の性がわからないというクエスチョニングと性的少数者を表すクィアの頭文字Qを加えた、セクシュアルマイノリティ全般を表す言葉。
(参照:Job Rainbow MAGAZINE「LGBTQとは?【当事者監修/2022年度最新版】」)

井上博史

当事者だけの問題ではなく、見たからには・知ったからには・相談されたからには、他人事にしない、行動して欲しいですね。
「研修で講師の方が言っていたよね」とか、「会社幹部が言っていたな」と、思い返して行動してくれるよう願っています。


荒金雅子

なにかひとつでも引っかかるものがあれば、普段忘れていてもふとそのことが浮かび上がってくることがあります。この研修が、そのフックになればと思っています。

自分自身をしっかり見る、関係性をどう作っていくかというところがすごく大事なポイントになっていて、これがまさにD&Iです。多様な人がいて、「ただそこにいる」だけでなく「受け入れて活かす」ことで相乗効果を生み出し、いろいろな取り組みがつながっていくように思います。

強みは「ものづくり」ではなく「人づくり」



荒金雅子

話は変わりますが、世界的な流れとして、*サプライヤー・ダイバーシティや*人権デューデリジェンスなど、ビジネス全体において多様性や人権に対する注目が高まっています。
自社だけではなくてサプライチェーンの中での多様性をしっかり見てマネジメントしていきましょうという考え方はますます強まっています。人的資本経営にしろ、*ISO30414にしろ、働く人の人権を保障しどう活かすのか、ということに改めて目が向き始めているように感じています。
その点についてなにかお考えのことはありますか?

*サプライヤー・ダイバーシティ:女性や障がい者、LGBT、退役軍人などのマイノリティが所有する企業が、大企業のサプライヤーとして、商品やサービスを提供する機会を得るための取り組み
(参照:KOKUYO MANA-Biz「大企業のサプライチェーンに女性所有の企業を!」)

*人権デューデリジェンス:企業が増大する人権リスクを調査・特定し、防止およびトラブルを対処する取り組み(日本の人事部「人権デューデリジェンス」)

*ISO30414:2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した、人的資本の情報開示のためのガイドライン
(日本の人事部「ISO30414」)

井上博史

弊社の特徴は「ものづくりではなく、人づくり」です。人への投資こそが弊社の源泉です。DXも結局は「人」に行きつくと考えています。

三菱電機とは業態が異なるわけですし、当然、独自の特徴を出していく必要があります。三菱電機が実施していなくても実施すべきこと、三菱電機よりも先に実施すべきことがあるはずです。弊社には、しっかり考えて、やるべきことは遠慮なくやる、という良さがあるのでうまく活かしていきたいです。人という貴重な財産を活かす会社でありたいと思います。


荒金雅子

最近は若い世代から学ぶことが多いなと感じます。つい若手はまだ未熟で、年配者=教える人、若い人=教えられる人と考えてしまいますが、若い世代はもっと柔軟に、年齢や属性を超えてお互いから学び合うことを望んでいるようです。

日本は年齢差別(エイジズム)が強くあるので、相手を年齢で決めつけてしまうところがありますよね。若手はこうだとか、シニア社員はIT苦手でしょ、とか(笑)。DX人材育成が急務といわれる中で、もうすこし柔軟になっても良いのかなと思います。


井上博史

年齢による無意識な決めつけはありますよね。


荒金雅子

アンコンシャス・バイアスを排除していくための仕掛けのひとつに、共同作業を体験するというのがあります。プロジェクトみたいな形で、皆で役割を決めてなにかする、小さいことで良いので共同作業をいろいろな立場の人と体験することによって、お互いの信頼関係や仲間意識が生まれます。知らないということが一番アンコンシャス・バイアスを生むポイントなので、お互いを知るような機会を意識的に仕掛けていくといいですね。

多様性を束ねるリーダーが組織を強くする



荒金雅子

今後、御社としてはどういう方向を目指すのか、こんなふうになると良いと考えていることなどはありますか?


井上博史

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)だと思います。弊社は、中途採用者、新卒採用、派遣社員から正社員に登用された方など多様な人材がいます。すでに多様な状態にありますので、この多様性をいかにして会社の強みにしていけるかが重要です。また、男女比率も5分5分であり、女性の活躍促進も課題です。

研究所勤務時代に、女性のエンジニアが少ないので5年間で20%まで増やそうと取り組みました。その中で、女性研究者からいろいろな意見を聞きましたが、女性の意見をきちんと活用しないといけないと強く感じました。
それからは、検討メンバーを集める際に、必ず女性を入れるなど意識しています。実際に男性だけでは出てこないような発想が出てきます。現在、女性管理職比率を増やすことにも取り組んでいます。


荒金雅子

私は最近、*心理的資本という考え方に注目しています。ポジティブな心理的エネルギーで積極的な行動や自律的な目標達成を促すエンジンのようなものであり、一言でいうと「やり切る力・やり抜く力」といわれています。
女性のキャリア研修やリーダーシップ開発には必須の考え方だと確信し、PsyCAPMasterⓇという資格まで取ってしまいました(笑)

管理職候補の女性達には*インポスター症候群というアンコンシャス・バイアスが根強くあります。自分には無理・できっこない・向いていない、と考えてしまう傾向が強く、自己肯定感が低い状態になっています。決して能力がないわけではありません。自分にはできる、やったらできたという自己効力感が弱いのです。自分を信頼し行動を起こすためには、自己効力感がすごく大事なのです。
心理的資本では、内面のマインドセットを整え、目標に向けて挑戦し自律的に前に進んでいくことを外から動機づけていきます。

*心理的資本:人が何か目標達成を目指したり、課題解決を行うために前に進もうと行動を起こすためのポジティブな心のエネルギーであり、原動力となるエンジンのようなもの(参照:Be&Do 「心理的資本とは?働きがいにつながる「内なるHERO」知っておきたい概要と潮流」)

*インポスター症候群:自分への過小評価・可能性を閉ざしてしまう思い込み(引用: 株式会社クオリア「アンコンシャス・バイアスとは?事例と対処法」)

井上博史

それは、男性もなかなか出来ていないと思います。管理職の素地を作るというところには、男女共通しているものもあります。
ただ、どうしても性別による特性については、対応を考えなければいけないですね。向上心の高い人、やる気のある人をいかに引き上げるか、多様な人たちの力を向上させ、当事者自身が強くなっていく。そういうことが大切な時期なのかなと考えています。
そのために研修が重要になっているのだと思っています。研修によってどんな化学反応が起こるのかわかりません。起爆剤だったり、着火剤だったり、潤滑油だったり。研修はそのような役割を果たすのだと思います。


荒金雅子

その通りだと思います。


井上博史

経営においては、素地を強くし全体の総合力を上げるということをやらなければいけません。そのために、今までと違う視点を持った人たちを束ねるリーダーが必要です。

今後は、多様な人たちを束ねていけるこれまでとは異なるリーダー像が必要になってくるのではないかと考えています。部下を支えるサーバントリーダーのようなスタイルが求められていますが、それだけではないはずです。状況に応じた多様なリーダーシップスタイルが求められています。そういう人を育てるにはどうすればよいのか、これが先々の課題だと思っています。


荒金雅子

D&I経営は、リーダーシップの多様性と自律的な人材の育成の両面が重要となります。リーダーシップの在り方そのものが多様化していく中でそれを取り込んで、組織の形にあったマネジメントを行っていかなければならないと思うんですね。自分に合ったやり方とか、慣れ親しんだやり方を好むものですが、これからは、むしろ「多様な価値観を包含し生かしていく」という考え方が重要となります。

弊社としてもまだまだお力になれることがあるかと思います。今後もどうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。


井上博史

こちらこそ、ありがとうございました!


対談後の井上博史様と荒金雅子

ご対談ありがとうございました!


〈参考資料〉

*360度評価
参照:日本最大級の人事ポータルHR pro「『360度評価』とは? 人事が知っておきたいデメリットや評価項目、評価方法などを解説」

*LGBTQ
参照:Job Rainbow MAGAZINE「LGBTQとは?【当事者監修/2022年度最新版】」

*サプライヤー・ダイバーシティ
参照:KOKUYO MANA-Biz「大企業のサプライチェーンに女性所有の企業を!」

*人権デューデリジェンス
参照:日本の人事部「人権デューデリジェンス」

*ISO30414:
参照:日本の人事部「ISO30414」

*心理的資本
参照:Be&Do 「心理的資本とは?働きがいにつながる「内なるHERO」知っておきたい概要と潮流」

*インポスター症候群:
引用: 株式会社クオリア「アンコンシャス・バイアスとは?事例と対処法」

髙津玉枝様と荒金雅子

左:株式会社福市 髙津玉枝様  右:荒金雅子


今回の対談相手は、株式会社福市の代表取締役社長・髙津玉枝様です。
髙津社長は、「フェアトレード」という理念を、日本ではまだあまり知られていなかった2000年代前半から取り入れ、開発途上国で厳しい環境に置かれている生産者を支援しながら、高品質で洗練されたデザインの生活雑貨や洋服を日本に届け続けて来られました。本対談では、髙津社長の歩みとともに、「エシカル消費」やSDGsという概念をどう捉えるかなどについてお話を伺いました。


株式会社福市 代表取締役社長 髙津 玉枝(たかつ たまえ)

大学卒業後、富士ゼロックス(株)(現・富士フイルムビジネスイノベーション(株))に営業職として入社。その後、雑貨商社を経て、マーケティング会社を設立。90年代後半にフェアトレードの理念と出会い、2006年に株式会社福市を設立。2012年にフェアトレードのセレクトショップ Love&sense を阪急百貨店うめだ本店にオープン。
現在、京都市イノベーション・キュレーター塾をはじめ、各地の企業や学校などで講演・セミナーを行う。
Love&senseのオンラインショップはこちら

【目次】
「フェアトレード」という理念との出会い
「走りながら考えることもできる」という言葉に背中を押されて
被災者と全国の人たちの気持ちをつなげるEAST LOOP
この地球上にどんな社会課題があるのかを知ることの大切さ
小さな一歩でも行動することで見えてくるものがある

「フェアトレード」という理念との出会い


荒金雅子

本日はお忙しい中、ありがとうございます。一度じっくりお話を伺いたいと思っていましたので、とても嬉しく思っています。

今日は髙津さんのこれまでの歩みと現在の活動についてお聞きしながら、小さくても何か一歩踏み出したいという若い世代の人たちの背中をそっと押すような内容になるといいなと思っています。


髙津社長

今日はよろしくお願いします。


荒金雅子

さっそくですが、髙津さんが最初につくられた会社は、家庭用品やインテリア雑貨などのマーケティングを行う会社だったんですよね。


髙津社長

そうなんです。大学卒業後、大手企業の営業職を経て、輸入雑貨など扱う商社に入社しました。その会社を辞めて独立し、マーケティング会社を立ち上げたのが91年のことでした。


荒金雅子

大手企業を辞めて転職、さらに独立とは、思い切りがいいですよね。


髙津社長

当時は、女性が生涯やりがいを持って働き続けるのが難しい時代でした。女性であることを理由にキャリアをあきらめたくないという気持ちが大きかったと思います。

もう一つ、若い頃に起業して上場させた祖父の影響もありました。「ビジネスとは自分の好きなことが実現できる手段だ」ということを、子どもの頃から感じていたんだと思います。


荒金雅子

なるほど。その後、フェアトレードという概念に出会われたのは、いつ頃でしたか?


髙津社長

90年代後半、デフレでだんだんモノが売れにくくなっていった頃でした。原価をできるだけ安く抑え、一方でどんどん消費させて、それが次々とゴミとなっていくというサイクルに疑問を感じ始めたのです。


荒金雅子

今でこそフェアトレードという言葉は日本でも普及しましたが、その頃はまだ一般的に知られていませんでしたよね。


髙津社長

はい。私自身も世の中の流れの中で、「できるだけ安く」という思考になってしまっていました。でもある時、この経済発展の裏側には、労働力を搾取されている人たちがいるということを知り、自分の仕事はこれでいいのだろうかと疑問を持ったのです。
そんなときにフェアトレードという考え方に出会い、その答えを見つけるべくNGOが主催するインドのスタディツアーに参加しました。


荒金雅子

インドまで行かれたとは!その行動力はさすがです。


髙津社長

現場に飛び込んで目の当たりにしたのが、染色工場に積まれていた汚泥の山でした。
化学物質を含む廃棄物が、工場の敷地で野ざらしになっていたんです。汚泥は雨に打たれて化学物質が地下に浸透します。

一方で、その地域に住んでいる人たちは井戸の水を汲み上げて飲んでいるわけです。私たちが安さを求めることによって、そこに暮らす人々に劣悪な生活環境を強いている。そしてこういう現状が流通のしくみの中にたくさん紛れ込んでいる。そのことに衝撃を受けました。

日本に暮らす消費者にこの現実を伝えたい、そして途上国の人たちを支援できるような商品を、マーケティングの力で新しい価値に転換させて提供したいと考えたのです。
そこで取引のあった企業を口説きに回りましたが、多くの企業が「それって儲かるの?」というような反応でした。

今ではCSR(企業の社会的責任)などの言葉が一般的になり、サプライチェーンの人権監視やダイバーシティ&インクルージョンの推進、環境への配慮などという企業の社会性と、収益性を両立させることは経営上においても重要なことだと理解されています。
しかし当時は、ほとんどの企業にそのような認識は薄く、「儲かりさえすればそれでいい」という考え方が普通だったのです。

「走りながら考えることもできる」という言葉に背中を押されて



荒金雅子

2000年代前半というと、ヨーロッパではすでに社会課題に向き合う企業に投資をするという流れがありましたが、日本ではまだそういう意識は薄かったと思います。そんな中での行動は、相当なチャレンジだったと想像します。


髙津社長

そうですね。当初は自分で起業することは考えていませんでした。商品の品質面の不安もありましたし。
タイミングよく国際NGOが日本での立ち上げに参加することができました。海外でフェアトレード商品を扱う店舗の実績を持つそのNGOを通じて、日本で店舗を作り広めていこうと考えたこともあったのですがうまくいかず、それなら自分でやるしかないと決断しました。

一方で、フェアトレードの認証について少し疑問をもちました。認証を取るには英語によるコミュニケーションはもちろん、ITスキルや資金が必要です。それを途上国の貧困な環境にある人たちが取得できるかは疑問でした。疑問を抱えながらの起業は迷いが生じると思いフェアトレード認証を行っているドイツの本部まで、ディレクターに会いに行きました。


荒金雅子

とにかく話を聞きに行ってみようということですね。髙津さんのそういうところ、すごく共感します。何か答えが見つかりましたか?


髙津社長

はい。そこで言われたことは「完璧なしくみを求めて悩んでいる間も、苦しんでいる人がいる。走りながら考えることもできるはず」ということでした。
そう言われて、自分が認証を取りたいとか、納得できるものを作りたいと考えていることそのものが保身だと気づいたんです。

そこで「とにかく日本にフェアトレードという考え方を浸透させ、それがかっこいいと思われるような文化をつくろう」と考えて、2006年に株式会社福市を立ち上げて活動を開始しました。


荒金雅子

人脈やノウハウもない中で、どのように今の福市の形につながっていったのですか?


髙津社長

立ち上げ当時から考えていたことは、単にかわいそうな人たちからものを買ってあげるというのがゴールではないということでした。

私たち先進国の消費社会において、みんなが知らないうちに社会の不平等な構造に加担しているということを広く伝え、そしてフェアトレードという理念に誰もがコミットできる形にすることだったんです。


荒金雅子

なるほど。まさにフェアトレードという理念は、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方にも深く関わりがありますね。多様性があふれるこの社会において、国籍や性別など問わず、それぞれの持っている力をその人らしく社会で活かしていくことができる取り組みであり、さらにそれは世界の諸地域における人々の多様な生き方を尊重し、全ての人たちの人間らしい生活につながるということだと思います。


髙津社長

その通りです。そこでまずは多くの人に知っていただきたいと考え、誰もが知っている大きな商業施設での出店を目指しました。運良く名古屋ロフトを皮切りに、表参道ヒルズ、各地の百貨店に期間限定出店や催事出店ができる機会に恵まれました。


荒金雅子

商品は売れましたか?


髙津社長

最初のうちは全然…(笑)人件費だけかかってしまって。
でもそこで落ち込むわけにいかないと、メディアにお願いして記事にしてもらったり、店舗でアンケートを取ったりしました。


荒金雅子

最初は投資。続けることが次につながっていきますね。


髙津社長

そうそう。チャンスの神様っていつ来るか分かりませんからね。そう信じて続けているうちに、認知度とともに売上も少しずつ上がっていき、2012年に阪急百貨店うめだ本店に初の直営ショップLove&senseをオープンしました。


荒金雅子

今、Love&senseのお店に行くといろいろな国の商品が並び、その一つひとつにストーリーを感じます。その商品を買うことによって、自分もそのストーリーの中の一人になったような気がします。
さらにアクセサリーやバッグを身につけることによって、平和や人権に対してきちんと考えているという意志の表明、そして自分への勇気づけになるように思うんです。


髙津社長

それはまさに私たちが伝えたい価値の一つです。
フェアトレードとは、実は「途上国の人々の生活や労働環境を改善する」という一方通行の取り組みではなく、私たちも買い物を通して作り手の生活を支えられることに喜びを感じたり、さらに地球上の様々な社会課題に目を向けるきっかけを得られたりという、お互いに幸せになる取り組みなんです。

荒金さんのように、商品を身につけることで、私はこんなことに気を遣ってものを選んでいるとか、こんな未来があればいいという、表現の一つと捉えていただけることも嬉しいですね。
お店に並ぶ商品は、サイズや色が微妙に違ったりするのですが、その不揃いも手作りゆえの温かみ。お客様はそれを喜んでくださいます。そこにはお金のやり取りだけではない、生産者との多様で豊かな関係性が生まれています。

それがまさに私たちの掲げるミッション「持続可能な社会に向けて行動する人を増やす」ということにつながっていますし、ダイバーシティ&インクルージョンという理念とも共通しています。

被災者と全国の人たちの気持ちをつなげるEAST LOOP


髙津玉枝様と荒金雅子

Love&senseの商品(ウクライナ支援特別仕様のハートブローチ)


荒金雅子

2011年の東日本大震災は、髙津さんにとっての一つの転機となったとか。


髙津社長

はい。私自身も阪神・淡路大震災を経験した者として、震災直後から何か力になれることはないだろうかと考えました。そして1ヶ月後には現地に入り、フェアトレードの考え方を軸に被災者の方々にアプローチしました。


荒金雅子

現地での反応はどうでしたか?


髙津社長

震災直後はこちらの意図が全く伝わりませんでした。今でこそクラウドファンディングや復興支援など、「買って応援する」という考え方が一般的になりましたが、その頃はそういう価値観がまだなかったんです。「被災者に仕事をさせる気か」というようなお叱りの言葉も受けました。

ただ私の中には、途上国と人たちとのフェアトレードの取り組みを通して「人から施されるだけでは人は生きていくことができない。人としての尊厳を持つことこそが生きる力になる」という確信がありました。
そして震災の約2ヶ月後、再び被災地を訪れた時に、今こそそれが必要とされている時だと感じたのです。


荒金雅子

プロジェクトが本格始動したのが震災の4ヶ月後とお聞きしています。


髙津社長

2011年7月に東北地方のNPO法人と協力して、被災地の女性たちが、かぎ針編みでものづくりに取り組むEAST LOOPというプロジェクトを立ち上げました。仲間とおしゃべりをしながら手仕事をすることによって、震災による悲しみや辛さを癒し、少しでも前向きな気持ちになれること、そして作ったものを届けることによって、誰かから「ありがとう」と言ってもらえること。それは「人の尊厳を取り戻す」ということでもありました。


荒金雅子

働いて収入を得るということが、精神的な自立やQOL(生活の質)の向上に大きく影響しているということですね。EAST LOOPの活動は現在も続いていますし。


髙津社長

みなさんが続けてくださったおかげで、編み手の方たちのスキルも向上し、5年目からは現地のチームが運営しています。今では毛糸メーカーからサンプル編みを受注するまでになりました。

立ち上げ当初からのコンセプトは「つなげていくこと」でした。被災者同士、また被災者と全国の人たちの気持ちをつなげ、それが循環していくような形になればと。そういう意味では、目指すべき一つの姿にたどり着いたような気がします。

この地球上にどんな社会課題があるのかを知ることの大切さ


髙津玉枝様と荒金雅子

Love&senseの商品について語る髙津社長と荒金


荒金雅子

SDGsという考え方が普及すると同時に「エシカル消費」という言葉もよく聞くようになりました。この言葉をどう捉えるか、難しいところがありますよね。


髙津社長

「エシカル」って、なんとなくふわっとした言葉なんですよ。ちょっとしたことでも「エシカルです」と言われると、何となくそんな気がしちゃうんです。


荒金雅子

確かに、フェアトレード商品だけでなくリサイクル品やエコマーク付き商品、地産地消品、寄附付き商品など、エシカルと言われるものは本当に幅広いですよね。


髙津社長

そうなんです。だからこそ見えにくくなってきていて、中にはマーケティングツール的に扱っているところ企業があったり、それってエシカルって言えるの?みたいな商品もあり、悩ましいところではあります。


荒金雅子

私たち一人ひとりが、どんな循環型社会をつくることが人々の幸せにつながるのか、きちんと考えることが大切ですね。
そうすると、あるべき商品や流通の形も見えてきますし、何をもってエシカルというのかということも、もう少しクリアになるように思います。


髙津社長

そうなんです。だからこそ「知る」ということが大切だと思います。この情報化社会は、アルゴリズムによって私たちをより狭い価値観や興味関心の中に誘い込もうとします。
そういうものから解き放たれて、俯瞰的な視点から「世界で何が起きていて地球上にはどんな社会課題があるのか」を見てみる。それによって気づくことがあると特に若い方たちに伝えたいです。

小さな一歩でも行動することで見えてくるものがある



荒金雅子

今後どんなことにチャレンジしていきたいと考えていらっしゃいますか?


髙津社長

まず一つは、市場に流通している商品には、どんな背景があり、どんな労働に支えられているのかについて、消費者がきちんと学べる機会を作りたいと思っています。

もう一つは、企業に対する理解の促進です。漠然としている「エシカル消費」とかSDGsという言葉の全体像をきちんと理解し、企業としてどんな取り組みができるのかを正しく見いだせるような機会を作りたいですね。


荒金雅子

長年、マーケティングや流通に関わられてきた髙津さんだからこその視点だと思います。「社会が変わるためには、小さくても何か行動することが大切」ということでしょうか。


髙津社長

はい。初めからパーフェクトじゃなくていいんです。まずは全体像を理解して、小さな一歩を踏み出してほしいと思っています。
例えば百貨店のバイヤーや企画担当の人たちに向けてセミナーをすると、みなさんは共通して「環境によくないものは売りたくない」という気持ちを持たれています。でも完璧を求めすぎて、どうすればいいか分からないというような声もあって。


荒金雅子

先ほどの髙津さんの話にもありましたが、最初から完璧になんてめざさなくていい。気づくということから始めることが大切だと思います。
知ることによってものごとの見え方って変わりますから。


髙津社長

そう。そのためには、いろいろな分野や立場の人たちと対話をすることが大切です。より複雑化するこの社会において、多様な視点や価値観に目を向け、理解しようと努力する中から気づきや学びが生まれ、そこから自分なりのアクションが生まれます。ほんの小さな一歩でも、行動することによって感じることがいっぱいあるはずですから。


荒金雅子

まさにダイバーシティ&インクルージョンの理念とつながります。今回の対談を通して、特に若い世代の人たちに「まずは自分なりの方法で自分ができる範囲でアクションを起こせばいいんだよ」ということを伝えられたらいいなと思っています。


髙津社長

できることからやってみるということです。これからも若い人たちが行動を起こせるようなきっかけを提供していきたいと思っています。行動変容の小さなタネを提供する、みたいなね。


荒金雅子

フェアトレードやエシカル消費という理念は、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方と共通する部分がとても多く、それは働く女性の権利にもつながっていると実感します。女性としてどう生きるのか、そして人との関わりの中で自分をどう役に立たせるかということではないかと。

実は髙津さんと初めて会ったのが吉田晴乃記念のイベントでした。その時に語られた「経済の新しい成長のかたちを女性が牽引する」という言葉がとても好きなんです。その言葉をきっかけに髙津さんとつながることができてとても光栄です。

これからも一緒にその理念を実践していきましょう!本日はありがとうございました。


髙津社長

はい、共にがんばりましょう!ありがとうございました。

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対談後の株式会社福市の髙津様と荒金雅子

ご対談ありがとうございました!


ダイバーシティ推進を実施するフジッコ福井様と荒金雅子

右からフジッコ株式会社 福井正一様、荒金雅子


今回の対談相手は、フジッコ株式会社の代表取締役社長の福井正一様です。
フジッコ株式会社様は豆と昆布食品を中心に各種食品の製造販売を行う健康創造企業です。
クオリアとは、2021年5月に経営層・管理職対象としたD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進セミナーを皮切りに、心理的安全性&アンコンシャスバイアスセミナーやクロスロード・ダイバーシティゲームの全社展開の支援など、多方面でお付き合いさせて頂いております。
本対談では、フジッコ様が進める「ニュー・フジッコ」の創造に向けたダイバーシティ経営や働きがい改革についてお話を伺いました。


福井 正一(ふくい まさかず)

神戸市出身、在住。東北大学大学院を修了後、花王㈱に入社。その後、フジッコ㈱に入社し、開発本部長、営業本部長を経て、2004年に代表取締役社長に就任。社是に「創造一路(ひとすじ)」を掲げ、昆布や豆など伝統食の知恵を活かした安心安全な商品で食を支える

【目次】
「六さんと語ろう!」が象徴するフジッコのダイバーシティ経営
内なるダイバーシティを経営に活かす
ダイバーシティ推進室を新設した経営リーダーの問題意識
多様性の時代における新しいリーダーシップ像とは
経営リーダーの役割は魅力的なビジョンを見せること
ダイバーシティ経営の根幹に女性管理職比率を掲げる覚悟

「六さんと語ろう!」が象徴するフジッコのダイバーシティ経営


荒金雅子

本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。

2021年は、心理的安全性、ダイバーシティ&インクルージョン、クロスロード・ダイバーシティゲームなど、様々な切り口でご支援させていただきました。特に管理職の皆様が関心をもって、熱心にディスカッションされていた姿が記憶に残っています。
又、個人的にもフジッコの豆製品が大好きで、本日対談できることを非常に楽しみにしておりました。


福井社長

ありがとうございます。


荒金雅子

フジッコ様は、2020年から、ニュー・フジッコの創造として「生産性の高い」「経営品質の優れた」「社員が働き甲斐のある」会社づくりに取り組んでいらっしゃいます。その背景やきっかけはどのようなものでしたか。


福井社長

創業60周年となる2018年に企業理念を刷新しました。創業当時から大事にしてきた企業理念ですが、トップダウンで長くやってきた弊害でしょうか、トップが言わない限り現場が動かないという組織風土がありました。自らが動いて、いろいろ情報を持って、こうしよう・ああしようという提案ができる社員が少なくなってきたのです。これではいけないと考え、企業理念を刷新したタイミングで、現場を回り、社員とじっくり話をしようと考え、「六さんと語ろう!プロジェクト」を始めました。

各地の工場や全国の営業所すべてに足を運び、若手や新入社員たちとも対話を重ねました。


荒金雅子

そのお話を聞きたかったのです。「六さん」ってどういう意味だろうと。


福井社長

六さんというのは僕の大学時代のあだ名なのです。名前が「正一」ですから、正と一を足して六。社長なんて呼ばなくていいよということで、親しみをもって、気楽に参加してもらいたかったんですよね。
いろいろな社員と対話する中で、「そろそろ会社も変わらなきゃ」という思いが強くなり、ニュー・フジッコの根底である「生産性」や「社員の働きがい」について、考え始めました。


荒金雅子

若手や現場の方とお話しされて、知らなかったことや、改めて気づいたということはありましたか。


福井社長

現場は人も足りないし、時間もない。特に工場は、残業続きで、猫の手も借りたいという状況でした。一方、営業には工場の苦労が伝わっていない。営業はどうしても数字を上げることに集中しがちです。


荒金雅子

他社でも、開発/製造/販売の3部門の理解や連携がとれないという悩みをよく伺います。


福井社長

おっしゃる通りです。
フジッコは創業者がトップの期間がものすごく長く、2代目の僕もすでに17年になります。長くなると見えなくなることもあるし、どうしてもマンネリになるところがあります。一方で、良いところは「決めたことは絶対やりきる」ということです。


荒金雅子

創業家の方が続ける企業のメリットはたくさんあると思っています。
トップの方を中心に結束力があり、ブランドの価値を大事にする誇りが社員の皆さんの中にもあるように感じます。


福井社長

なるほどね。


荒金雅子

だからこそ、その創業家の方々がどのようなマインドを持っているかが、企業をどういう方向にもっていくかに直接的につながっていくのだと考えています。

内なるダイバーシティを経営に活かす



荒金雅子

BtoBの会社に比べ、御社のようなBtoCの食品メーカー様は社員の方もより敏感にお客様の声を聴かれていると思います。消費者にも親しみを持ってみられていますよね。


福井社長

ありがたいですね。


荒金雅子

だからこそ、ちょっとしたトラブルや不祥事が、大きなダメージになるリスクも感じます。


福井社長

はい、そうですね。


荒金雅子

社会の変化に対応するダイバーシティの視点は絶対に必要だと思っています。
私は、よく「内なるダイバーシティ」と「外とつながるダイバーシティ」があるとお伝えしています。内なるダイバーシティというのは、組織内の多様性です。
御社で扱っている商品を購入するのは、圧倒的に女性が多いと思いますが、社内はどうでしょう・・・。


福井社長

決めているのは男性ばかりとかね(笑)


荒金雅子

過去には、同質性や均質性の高い組織でもうまくいっていた時代はあったと思います。でも、働く女性が増え多様化した時代にはそれに対応できなくなっています。特に女性の購買力は飛躍的に伸びています。今では世界の6割は女性が購買力を握っているといわれています。御社の購買層をみると、9割が女性ですね。


福井社長

おっしゃる通りです!僕もそれを強く思っています。

ダイバーシティ推進室を新設した経営リーダーの問題意識 


荒金雅子

2017年にはダイバーシティ推進室を作られたと伺っていますが、新たに室として新設された思いや問題意識は?


福井社長

企業風土を変える「ニュー・フジッコ」プロジェクトを始める前に、ダイバーシティ推進室を新設しました。女性活躍の重要性が取り上げられる中で、いろいろ研修やいろいろ人のお話を聞いて、もっともっと女性のよいところを自社でも活かしたいと思いました。

もちろん、ダイバーシティ=女性というわけではないのですが、本当に今、自分たちの周りを見ると、男性社会。管理職も男性しかいない環境でね。

特にフジッコは、女性がお客様なのに、どうして男性だけで決めているのか。
だから、「もっと女性が前に出た経営が必要になってくる」「女性活躍をもっともっと進めたい」というのが、最初の気持ちでしたね。そこでダイバーシティ推進室を作りました。
ダイバーシティ担当役員を置くなど組織を整え、外部からも人材を採用して「女性がもっと前にでてきていいよ」という風土を作りました。 


福井社長

僕自身が女性向けの研修の中で、いろいろ話をしてきましたので、以前に比べ「女性が活躍してもよいのだ」「女性が課長や部長、管理職になれるのだ」と理解してもらえるようになったと思います。


荒金雅子

組織改革と研修をあわせて実施されてきたのですね。


福井社長

はい、そうです。ただ、当社の風潮として、おとなしく、真面目にコツコツ仕事をするタイプを多く採用してしまう傾向があり、なかなか頭をださないという課題があります。


荒金雅子

特に女性の場合は、組織の中で頭角を現すことが必ずしもプラスにはならない面があります。出すぎると打たれる、控えめにするとおとなしすぎると言われる。私自身も(組織の中で)苦労しました(笑)


福井社長

もう、どっちやねん、という世界ですよね(笑)


荒金雅子

他社様でも女性管理職研修を継続して支援していますが、3年から5年目ぐらいになってくると「管理職を目指すのは当たり前」という意識になります。いろいろなタイプの女性リーダーが出てきて「この人にはなれないけど、こういうやり方だったらできる」に変わっていきます。女性向けの研修はぜひ続けていただけたらと思います。


福井社長

ぜひそういう風にしていきたいですね。


荒金雅子

まだ、管理職候補者のプールの中で「泳いでいる女性候補者が少ない」という状況かもしれませんが・・・


福井社長

今は、どちらかというと、男性も「管理職になりたがらない」。
自分の上司たちの働き方をみて「あんな世界は嫌だ」と思っている人たちもたくさんいて。(管理職になることを)素晴らしいバラ色の人生ではなくて、地獄に落とされるように思っている(笑) 

「ああなったらもう最悪だな」と思ってしまうところがね、過去の組織にはありました。


荒金雅子

かつては「(管理職は)犠牲の出し合い競争に勝った人がなる」と言われていた時代がありました。ただ、その頃は物質的に豊かになっていきましたし、給料も増えて、成長も実感できたので。


福井社長

見返りがありましたよね。


荒金雅子

今はそういうのがないですね。


福井社長

(見返りがない中で)苦しい思いをしてまでというね。それが大分、昔と違うのだろうなと感じますね。

多様性の時代における新しいリーダーシップ像とは



荒金雅子

従来型のリーダーシップやトップダウンによるリーダーシップは今も必要ですが、それだけでは続かない、という悩みがありますね。


福井社長

そうなのです。だから、組織のカベをなくす/低くすることが重要だと感じます。不要な仕事は捨てて、残業も極力なくしてね。「社員のみなさんがもっと住みやすい/暮らしやすい」「みなさんの笑顔がある会社にしなきゃ」ということは考えてきました。


荒金雅子

フジッコ様では働き方改革にも取り組まれていますが、最近は働きがい改革と銘打つ企業も多いです。


福井社長

働き方改革より働きがい改革の方がいい言葉ですね、なるほど!


荒金雅子

働きがいという言葉は、「社員のモチベーションや成長、承認欲求を満たす」ことを目的にしているメッセージがあります。仕組みや業務の効率化よりも、社員の働きがいがより重要になってきていると感じています。


福井社長

我々が考えるニュー・フジッコも、まさに働きがい改革を掲げています。
かつては、極度なお客様思考がありました。無理な要求を受け入れて、過酷な労働になってしまったり。そういう働き方を変えて、「社員第一(ES)でいこうよ」と呼びかけました。

社員が一番、働きやすく生きがいを感じる、自分が認めてもらえると実感できる会社にして、そのために人事制度を変えて、評価制度を変えてやってきました。公正な評価の元で、できる人がどんどん給料をもらえる会社にしようというのが、ニュー・フジッコの趣旨です。

経営リーダーの役割は魅力的なビジョンを見せること


荒金雅子

大変素晴らしい取組みですね。一方で、変化は、たとえそれがいい変化であっても、抵抗感を持つ方がいると思います。よくないことでも慣れ親しんできた風土や習慣は変えにくいという意見はでませんでしたか。


福井社長

おっしゃる通りです。たとえ、本当はよくなかったとしても、慣れてくるとやっぱりよいもののように感じられてくるのですよ。

抵抗もありましたね。口では「ハイハイ」と言ってるけど、やっぱり疑問を持ってるなという人は役職者にもいます。


荒金雅子

変えることの大変さですね。マリッジブルーやマタニティブルーなど、結婚や出産といううれしい出来事も、環境が変わることへの不安や緊張感があります。組織の改革においても、ネガティブな反応はつきものかなと思います。今、どういうことを感じていらっしゃいますか。


福井社長

まさにおっしゃる通り、風土を変えるというのは至難の技です。本当にちょっとずつちょっとずつ前進だなと思っています。

抵抗勢力とは言えなくても、「本当にこの改革を成し遂げた後に、素晴らしい景色が見えるのか」と疑問に思う人たちもたくさんいるものです。改革をしているときは、富士山を登っているのと一緒で、もうしんどくてしんどくて、周りなんて見ている余裕もない。周りを見ても、ごつごつした岩の道ぐらいしか見えないわけです。

でも、僕自身は(苦しい山を)登った後には「こんな素晴らしいご来光も見えるぞ」というつもりで、リーダーとして引っ張っていこうと思っています。

ダイバーシティ経営の根幹に女性管理職比率を掲げる覚悟



荒金雅子

改めて、御社は2025年に女性管理職比率20%という目標を掲げていらっしゃいますが、詳しくお聞かせください。


福井社長

今のフジッコにとっては、チャレンジングな目標です。でも、今、社内の女性たちで管理職やリーダーに一歩手前な人たちがたくさんでてきているので、期待しているんです。


荒金雅子

楽しみですね。そういう女性たちにどんなチャレンジをさせると、3年後・5年後にどういうポジションを担ってくれるだろう、と上司や周り、会社は考える必要があると思います。


荒金雅子

今まで女性は男性以上に能力を出して、はじめて評価されるところがありましたので、ある意味、男性は女性以上に明らかに能力があることを見せていただければ、何の問題もないのでは、と思っています(笑)


福井社長

そう!そうです、そうなのです。


荒金雅子

女性がきちんと評価されにくい組織にいると、別にチャレンジしなくていいのかなと思う女性も多いと思います。だから、今のマネージャーの皆さんの姿そのものがいきいき見えるようなやり方も、すごく大事かなと思います。


福井社長

やはり、女性の管理職をもっと作らないといけませんね。「あんな女性の上司になってみたい」という理想像がはっきり見えれば、管理職になりたいという女性も増えるんじゃないかと思います。


荒金雅子

準備のできている人たちが、御社でも社会でも、少しずつ増えてきていると思いますので、そういう人たちが着実にキャリアアップできるようになるといいですね。2025年に女性管理職比率20%となると、あと3年(インタビュー当時は2021年12月末)ありますので、マイルストーンを設定していけば達成可能だと思います。


福井社長

必ずここは実現させたいです。毎年10人ずつ登用していけば、すぐ30%になりますよね(笑)


荒金雅子

女性活躍推進は、女性が元気になるだけでなく、若手の男性やパート、協力会社の方たちなど、会社に関わるすべての人を元気にする施策だと思っています。

人を育てることは時間がかかりますが、D&I推進には最も効果があると思っています。お力になれることがあればぜひお声掛けください。本日は本当にありがとうございました!


福井社長

こちらこそ!!女性が元気になれるアイディアをこれからもいただきたいです。


ダイバーシティ推進対談後のフジッコ福井様と荒金雅子

対談ありがとうございました!


参考資料
フジッコレポート 2021
https://cms.fujicco.com/corp/sustainability/upload/report2021.pdf
フジッコ株式会社 フジッコの心普及プロジェクトチーム「まさに働きがい改革!六さんと語ろう!」https://award.atwill.work/stories2019/868/
フジッコ株式会社「新企業理念の実現を⽬指して」
https://www.fujicco.co.jp/corp/ir/images/pdf/20180818.pdf
マイケル・シルバースタイン、ケイト・セイヤー『ウーマン・エコノミー: 世界の消費は女性が支配する』ダイヤモンド社、2009年

ダイバーシティ推進に取組む寺嶋様と荒金雅子

左から寺嶋様、荒金


ダイバーシティ推進の成功のためには、トップの強いコミットメントと、それを実現する現場のアクションが非常に重要です。フジッコでは、ダイバーシティ推進グループメンバーが主導となり、全社の営業社員を対象に、2021年度にクロスロード・ダイバーシティゲームのワークショップを実施しました。

今回は、取締役上席執行役員として、ダイバーシティ推進を牽引されている寺嶋様、ワークショップの企画・運営に携わったダイバーシティ推進グループの中嶋様、中村様、宮島様に、活動の目的や社内の変化についてお聞きしました。
第一回:働きがい改革で組織変革!ダイバーシティ経営を進めるフジッコの覚悟はこちらをご覧ください


■寺嶋 浩美(てらじま ひろみ)

兵庫県 出身。神戸大学農学部を卒業後、1987年フジッコ㈱入社。商品開発、マーケティングを経て通信販売事業部では事業拡大に貢献。2018年に人事部門へ異動、2021年取締役上席執行役員人財コーポレート本部長就任。


【目次】
ダイバーシティ推進のテーマは心理的安全性
商品開発からマーケティング、ダイバーシティ推進室へ
ダイバーシティ推進では「一緒にやったこと」を喜びにできる
ダイバーシティ推進でカードゲームを導入した理由
クロスロード・ダイバーシティゲームを全社で展開!受講生の反応は?
クロスロードダイバーシティファシリテーター養成講座を受講した理由
カードゲームで効果あるの?養成講座で気づいたこととは
展開して実感!クロスロード・ダイバーシティゲームの効果とは
クロスノート・ダイバーシティゲームで感じた社内風土の変化
部署を越えた関係性をつくるために!ダイバーシティ推進の展望は


ダイバーシティ推進のテーマは心理的安全性



荒金雅子

本日は貴重なお時間をありがとうございます。寺嶋さんとはもう10年来のお付き合いですね。

フジッコ様では、心理的安全性をダイバーシティ&インクルージョン推進の大きなテーマとして掲げています。その中で当社のアンコンシャス・バイアスの研修やクロスロード・ダイバーシティゲームを導入いただきました。心理的安全性に力をいれる背景やきっかけはどのようなものでしたか。


寺嶋浩美

心理的安全性は、成果をだす組織のキーワードであり、ずっと当社でやりたいと思っていましたが、ようやく2021年に実現しました。

経営層に業績結果だけでなく 、心理的安全性やアンコンシャス・バイアスについて「そうだよね!重要だよね」と受け止めていただけるタイミングをずっと計っていました。
まずは私たち自身が「意見を自由にいえる風土をつくろう」と決め、荒金さんにお願いすることにしたのです。おかげでいい取組みになりました。


荒金雅子

ありがとうございます。実際にどのような変化があったとお感じですか?


寺嶋浩美

最近は「対話のための風土」が徐々に整ってきている気がします。例えるならば、土が耕されている感じがしますね。「こういう種を植えましょう」というと、すでに土が耕されているので、「そうですね」と、すぐ次にいける。

最初に皆さんが意見を言いやすいようにする/そういう環境を作れる上司がいい上司だねというコンセンサスが、社員の皆さんと共有でき始めていると思います。

昔は、上司がガンガン示したり、(部下や自分自身について)長時間労働で働く社員が良い社員とされていた時代がありました。そういう価値観も大きく変わったなと思います。


荒金雅子

そうですね、時代によって求められる組織風土やリーダー像も変わってきますね。

商品開発からマーケティング、ダイバーシティ推進室へ


荒金雅子

寺嶋さんは現在、取締役上席執行役員 人財コーポレート本部長 ですが、今まではどのようなキャリアを送ってこられましたか。


寺嶋浩美

私は商品開発で入って、ずっとマーケティング畑でした。その後、通販の事業部長になってから、執行役員を5年間勤めました。


荒金雅子

もともと上を目指すとか、管理職になろうという意識はあったのでしょうか。


寺嶋浩美

すごく仕事が好きだったので、上を目指していけば、予算を使えたり意見が通りやすくなったり、できることが増えると思っていました。


荒金雅子

女性が管理職になるためには様々な壁や障害、時には妨害もあると思いますが、どのような工夫をされていましたか。


寺嶋浩美

「教えを乞うこと」、また「熱意を持って伝えること」を意識していました。最初に配属された商品開発では資材や品質管理の責任者の方々や、工場長などに「お客様視点ではこういう商品が気に入ってもらえると思います!」「この商品が開発できれば、女性が助かると思うんです!!」と、直談判していました。すると、「そう言うなら協力しようか」と助けてくれるようになりました。


荒金雅子

キャリアに対して、上司からの働きかけはありましたか。


寺嶋浩美

当時の上司から「これからは女性も経営リーダーとしてやっていかないといけないよ」「やってみればなんとかなるよ」と言われました。

部長就任時は、女性管理職が2名だけという状況。それでも自分がやらなきゃ、と「女性も意見を持っていることを知ってもらおう」「何人もの女性の意見を代弁する」「会議では絶対に発言する」と決め、足が震えながらもやっていました。

執行役員になってからも、どの議題にも必ず意見を言うと決めていました。就任間もなく、社長から「寺嶋さん、最初に発言するよね。それはいいよ」「最初に発言にすると、他の人が言いやすくなるから、大事だよ」とおっしゃっていただき、それもあってやってこられたと思います。


寺嶋浩美

執行役員になってみると、経営の情報が入ってくるようになり「面白いな」と感じました。勉強しなければならないことも増えますが、色々なことがわかるようになることが喜びでした。

又、人事に異動してからは経営層と話す機会が非常に増えました。そのやりとりを通して、「取締役の皆さんは、日頃こういうことを考えているのだな」というトレーニングをさせていただいていたような気がしますね。

ダイバーシティ推進では「一緒にやったこと」を喜びにできる



荒金雅子

商品開発から人事に異動となったときに、戸惑いはありましたか。営業や商品開発は「自分で成果を上げること」がわかりやすいのですが、人事の仕事は、自分一人では成果が出せず、間接的です。「今やっている仕事がどうつながっているのか、わからない」というストレスや、社内の関係性の問題もよく伺います。


寺嶋浩美

おっしゃる通りです。

開発はヒットしたら「あの商品の開発者は寺嶋さんだよね」となるし、(通販)事業部では 売上がありますので、とにかくわかりやすい成果が出せましたが、人事部の仕事はKPIの達成にしても時間がかかります。

一方で、人事の仕事は一緒にやってくれた皆さんと「うまくいっているよね」と確認しあえることを喜びにできる仕事です。

より気持ちいい環境や関係性ができたときに、「そういう考え方がいいですよね」と、受けいれてくださる方が多いと思っています。


寺嶋浩美

2021年に当社が掲げた心理的安全性に対しても、社長やダイバーシティ推進室が発信したことに対して「こういう風に会社がなってくれたら、本当にいいわ」と歓迎してくれて、それを続けていこうとする姿が見えることが、今の楽しみですね。

ダイバーシティ推進でカードゲームを導入した理由


荒金雅子

フジッコ様では、今年横断的にクロスロード・ダイバーシティゲームを展開いただきました。


寺嶋浩美

このゲームをやってみると、「楽しい!」「こんな風に上司やチームと話し合ったことなかった!」と社員の皆様が喜ぶんですよね!コロナ禍によって急激に話し合う場が減った中で、「じゃあ、業務のこと話しましょう」と言ったら、みんな固まっちゃう。でも、クロスロード・ダイバーシティゲームだと言いにくいことや微妙な問題も率直に対話をすることができます。コミュニケーションツールとして、すごくいいと思います。


荒金雅子

ありがとうございます。対話の誘発/創発を、このゲームでは大事にしています。


寺嶋浩美

このゲームは、ものすごく傾聴力が身に付きますよね。どんなに研修をやっても傾聴力が身に付かなかったのに、クロスロード・ダイバーシティゲームだと「みんながこんなに良く考えた異なる意見をもっている」と実感できるので、マネジメント教育にもなるなと思います。

今、管理職が(別の部署で)クロスロード・ダイバーシティゲームの進行役をしていますが、ファシリテーションスキルも身についています。クロスロード・ダイバーシティゲームの場をちゃんと運営できるマネージャーを増やすことも来期の目標になっていますね。


荒金雅子

貴重なお話を誠にありがとうございます。キャリアのお話など多方面に伺えて、大変勉強になりました。

次は、現場で実際に導入・ファシリテーターを務めているダイバーシティ推進グループのメンバーの皆さんのお話も伺いたいと思います。


クロスロード・ダイバーシティゲームを全社で展開!受講生の反応は?


ダイバーシティ推進グループの皆様

左から中嶋様、荒金、中村様

■中嶋 睦美(なかしま むつみ)課長 
担当領域: 心理的安全性のある職場づくり、女性活躍推進、障がい者雇用
モチベーションの源泉: 誰もやったことがないことに取り組むこと
■中村 美理(なかむら みさと)
担当領域: キャリア開発研修、育児両立支援、イクボス推進
モチベーションの源泉: 従業員の笑顔を見ること
■宮島 美邑(みやじま みゆ)
担当領域:階層別研修、自己啓発支援、 LGBTフレンドリー推進
モチベーションの源泉: 曖昧さ回避

荒金雅子

御社では、本社や全国の営業所で クロスロード・ダイバーシティゲームを導入・展開いただきました。反応はどうだったでしょうか。


中嶋睦美

営業と商品企画・マーケティングを行っている部門、そして工場の一部に実施して約300名が参加しました。そのうち99%が「参加してよかった」「とても良い機会だった」と言ってくれました。

「同じ部署の人とこんなに話したことはなかった」「プライベートの話など今までしたことがなかった」「(勤務中は)業務に集中していて他の話ができないし、在宅勤務が増えている中で、お互いを知るよい機会だった」という反応でした。


中嶋睦美

元々は、役員会で実施したのですが、参加した本部長のみなさんが「ぜひうちの本部でやりたい!」と言ってくださり、9月から11月にかけて大々的に実施することになりました。当社は10月頃から繁忙期に入るのですが、部課長がスケジュールを調整してくださり、実施することができました。


荒金雅子

それは大変嬉しい反応ですね。

クロスロードダイバーシティファシリテーター養成講座を受講した理由


荒金雅子

企業で、クロスロード・ダイバーシティゲームを内製化/展開される場合、私たちクオリアのファシリテーターが出向いて研修を実施したり、カードだけを購入して展開いただくことも多くあります。


荒金雅子

全社展開前に、御社クロスロード・ダイバーシティファシリテーター養成講座を、中嶋さんと中村さんに2名で受講いただき、しっかり学んでいただきました。

社内で「(カード購入や講師派遣ではなく)担当者が養成講座を受講する意味はあるのか」という声はなかったのでしょうか。


中嶋睦美

そういった声はありませんでした。私達は日頃から社内研修でファシリテーターを務めることもありますので、ごく普通に「自分達が展開していくのだ」という意識で養成講座を受講しました。

カードゲームで効果あるの?養成講座で気づいたこととは



荒金雅子

クロスロード・ダイバーシティファシリテーター養成講座を受講した感想はどうだったのでしょうか。受講前の印象との違いはありましたか。


中村美理

正直申しますと、受講前は「ダイバーシティをカードゲームでやってどういう効果があるのだろう」と思っていたんです。

でも、実際にやってみると、自分の思い込みに気づきました。例えば、私には子どもがいますが、「小さい子どもがいたら転勤できない」と(無意識に)思い込んでいました。でも、転勤の問題カードが出た時に、受講生の中にまさに小さいお子さんがいながら転勤をした女性がいて、いろいろな気づきがありました。その時に「これはいいな」と思いました。

展開して実感!クロスロード・ダイバーシティゲームの効果とは


荒金雅子

クロスロード・ダイバーシティゲームの問題文では、転勤や介護、呼び名問題など、普段の生活ではなかなか話さないテーマがでてくる場合もあります。


中村美理

それまで会話したことがないテーマを外部の方と話すことで得るものがありました。社内で展開したときも、同じ部署にいてもいろんな意見があって、たくさんの発見がありました。


荒金雅子

ゲームのファシリテーターをされてどうでしたか?かなりの回数を実施されていますが、ご自身の中で何か変化がありましたか。


中村美理

グループの中には沈黙するグループもあってそういう時は自分も少し入りますが、話してくれそうなグループの場合は、場に任せてみる大事さを感じています。
私はよく自分が話過ぎるときがあるのですが(笑)、場を信頼することも、ファシリテーターをする中で知りましたね。

クロスロード・ダイバーシティゲームでは、全員が必ず理由を述べる、というルールがあるので、普段発言しない人も絶対に発言する、/自分の意見を言う、というのもこのゲームのいいところだと思います。


荒金雅子

今回は皆さん同じ部署から参加されたのでしょうか。


中村美理

はい、今回は同じ部署のメンバーで実施しました。もともと「心理的安全性のある職場づくり」というテーマで今期は取り組んできましたので、その最小単位である「課」から始めました。部長の参加は任意でしたが、興味をもったある部長は管轄する複数の課の回に参加されていましたね。


荒金雅子

宮島さんには、当社の体験セミナーにご参加いただいていましたが、ゲームを体験したり、実際にクロスロード・ダイバーシティゲームを社内で展開される中で、感じられたことはありますか。


宮島美邑

「いろいろな意見があっていろいろな方がいるな」と思いました。長く人事に所属していると、事前にこの人は「こんなタイプだろうな」とイメージしてしまうことがあります。ゲームを通して、(自分のイメージ)通りだなと思うこともありますが、意外な一面が見えるときもあります。「こういう一面があったのか」とか「(思っていたより)よく話す方なのだな」とか。


荒金雅子

同じ部署で日頃からよく話している相手のことは知っているつもりだったけれど、ゲームを通して、「ああ、そういう風に考えているのか」ということに改めて気づくこともありますね


中嶋睦美

展開した私たちも、ゲームを通して、部署を知る/個人を知るという点で、とても勉強になりました。

営業本部で実施した際に、本部長や部門長が「(部下たちは)こんなことを言うのか!」と、とても喜んでくれました。日頃、上層部が気づいていない部分が、(ゲームを通して)見えたのかなと思います。


荒金雅子

そうですね。クロスロード・ダイバーシティゲームをすると、(普段のメンバーの一人ひとりの)意外性に気づくことが多いです。普段は踏み込んで話をしない話題でも、自己開示をすることによって、お互いをより近く感じられるようになります。

今までは「他の部署の人」「あの営業所の人は」とひとくくりにみてしまいがちだったことが、ひとくくりにせずに、「その人自身」を見るようになるということでしょうか。

クロスノート・ダイバーシティゲームで感じた社内風土の変化


荒金雅子

今回のゲームを通して、今回はアンコンシャス・バイアスや心理的安全性をテーマに進めてこられましたが、社員の皆さんの意識はどう変化したと思いますか。


中嶋睦美

最近は、「これは偏見かもしれないけど・・・」という枕言葉をつける人が増えました。また「それ、アンコン(シャス・バイアス)ですよ!笑」と上司に突っ込む人も散見されます。


中村美理

ゲームの途中でも言ったあとに「あ」って(自らで)「私、これってアンコンです」という人がいました。


荒金雅子

今までであれば、気づかなかったこと/アンテナが立たなかったことに対して、ゲーム体験したことで、知識と日常業務がより紐づいた、という感じですね。


中嶋 睦美

そうです、おっしゃる通りです。


荒金雅子

セクハラのように、それを言ったから即NGというよりも「やっぱりアンコンシャス・バイアスはあるよね」っていう認識が広がる点もいいですね。笑いというか、共感というか、やっぱり誰にでもあるよねっていう風に、気楽さがあるところも大切かなと思います。

ダイバーシティ推進では「触れてはいけない」「どこまで気をつかえばいいのか」というセンシティブさもあり、現場の皆さんも、とても悩まれていると思うのです。

ゲームを通していろいろな意見を交わす中で、「これはOKと思っていたけど、やっぱりまずいのかな」と気づくことができます。いかに自発的な気づきを引き出すかという仕掛けづくりが、ダイバーシティにとっては大事だと思っています。

部署を越えた関係性をつくるために!ダイバーシティ推進の展望は


荒金雅子

来年(インタビュー当時は2021年末)に向けてどのような展開をお考えですか。


中嶋睦美

心理的安全性は、OS(オペレーションシステム)のようなものだと思います。ダイバーシティには、イクボスやLGBTなど様々なテーマがありますが、まずは心理的安全性があって、そのうえに様々なアプリ(イクボスやLGBT)が生きてくる。ですから、この取組みを今期で終わせるのではなく、ぜひ来期以降も継続していきたいです。

例えば、部署をまたぐ関係性構築を目標としてクロスロード・ダイバーシティゲームを活用することも考えています。できればフジッコのオリジナルの問題カードを作りたいですね。職場からいろいろな意見を集めて、全社新春カルタ大会じゃないですけど、クロスロード大会などできればいいなと思っています。


荒金雅子

クロスロード大会!とても素晴らしいアイディアですね。

開発・製造・販売の連携は他社様でも抱えている問題です。みんな同じテーマで悩んでいることやまったく違う視点を持つことに気づく機会を作ることが非常に重要だと思っています。

ゲームを作る際は、当社としてもぜひ、何かお力になれればと思います。
本日はありがとうございました!!!


ダイバーシティ推進グループと対談

対談ありがとうございました!


多様性がそこにある(ダイバーシティ)という状態から、そこにある多様性をいかに理解・受容し(インクルージョン)、活かしていくのか。組織のめざすダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を実現するために、本当に効果的な施策とは何か。本企画は様々な企業や個人が取り組むD&Iの現状と未来をリアルに伝えることを狙いとしています。

今回のお相手は、日立ソリューションズ株式会社の皆さまです。日立ソリューションズ株式会社は日立グループの情報・通信システム事業の中核を担うIT企業として、ソフトウェア・サービス事業、情報処理機器販売事業を行っており、12,610人の社員が働く企業です(連結総人数、2019年9月現在)。

クオリアとの関係は合併前の2009年にさかのぼります。GSW(Global Summit of Women)への女性社員派遣事業へのアドバイスをはじめ、管理職向けマネジメント研修やアンコンシャス・バイアストレーニングなど様々な研修や、更にダイバーシティカードゲーム「クロスロードダイバーシティ編」のご活用など、深くお付き合いいただいております。
今回対談にご参加くださったのは、各部門でダイバーシティ推進を担当されている4名の女性リーダーの皆さまです。全2回シリーズの前半は、日立ソリューションズ様のダイバーシティに対する取り組みと成果について、D&Iを推進する企業様に広くお伝えいたします。

左から:角南美佳様、佐藤ゆかり様、中西真生子様、クオリア荒金、佐藤千文様


<プロフィール>
■スマートライフソリューション事業部 プロジェクト統括部 部長代理 佐藤 ゆかり 様 
■クロスインダストリソリューション事業部 ビジネスコラボレーション本部 主任技師 角南 美佳 様
■スマートライフソリューション事業部 ワークスタイルイノベーション本部 センタ長 中西 真生子 様
■ITプラットフォーム事業部 デジタルプラットフォーム本部 主任技師 佐藤 千文 様


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